月別アーカイブ:2020年7月

読み書きは先天的でなく訓練

2020年7月15日   岡本全勝

7月12日の読売新聞文化欄、神経科学者メアリアン・ウルフさんの「教育の中での読書 紙の本「深く読む脳」育む」から。

・・・ ヒトが文字を読み、書くことは当然だと私たちは考えがちです。違います。読み書きはヒトの天性ではありません。発明です。
人類は20万年ほど前にアフリカ大陸に出現したとされています。言語は数万年前には誕生し、文字は6000年余り前に作られたと考えられます。人類史の中では相対的に最近のことです。最初は、群れをなす野生動物の頭数の筆記といった単純な内容でした。

見る・聞く・話す・嗅ぐといった行為は遺伝子でプログラムされています。それぞれの行為に対応する神経回路が脳に備わっている。乳児は周りを見て、においを嗅ぐ。幼児になれば、言葉を発し、簡単な意思表示もできます。
読み書きは遺伝子に組み込まれていません。では、どうやって身につけるのか。
大人が忍耐強く文字を教える必要があります。やがて幼児は文字が一つ一つ違う音に対応し、そのまとまりが意味を持つことに気づき、記憶する。この時、脳内で文字と音と意味を結びつけた、全く新しい複合的な神経回路が発明されている。脳の柔軟さが読み書きを可能にするのです。

単語の連なる文章を理解することは単純ではありません。脳に巨大な連結器のようなものができて、文字・音・意味を結びつける基本的な複合回路を次々と素早くつなぎ合わせることが必須です。文章の意味をくみ取るために、脳は大車輪の働きをしている。
私流に言うと、「読む脳」の誕生です。「読む脳」は経験を重ねて成長します。子供は読むことで育つともいえます。

8歳から10歳の間に、知識が増え、考える力が少しずつ備わります。自分が知っていることに照らし合わせて、文章の意味を推理できるようになります。
10歳から12歳になると、文章を読み進めながら仮説を立て、仮説が正しいのか間違っているのか、次第に判断できるようになる。作者や登場人物の感情や考えに思い当たるようにもなる。これはとても大事なことです。世の中には自分とは違う考えの他者が存在していることを理解するわけですから。大人へ向けた第一歩です。
初等教育で重要なことは、子供を励まし、手助けをして、推理・推論・真偽判断を含む、総合的な読む力を育むことです・・・
この項続く

大熊町と双葉町の負担の上に

2020年7月14日   岡本全勝

事故を起こした東電福島第一原発が立地していた、大熊町と双葉町は、放射線量の高い地域が残り、避難指示解除ができない場所も多いです。少しずつ復興が進んでいますが、まだ復興の出発点に立てない地域があるということです。

さらに、第一原発周辺に、中間貯蔵施設を造りました。福島県内の除染作業で出た土などを、一か所に集めて保管する場所です。これによって、他の地域の放射線量は低くなり、安全になりました。
しかし、中間貯蔵施設を引き受けた大熊町と双葉町は、この迷惑な施設を抱えなければなりません。両町が自らを犠牲にして、他の地域の復興を支えたのです。これは、いくら感謝しても足りません。

いま、第一原発に貯まり続けている処理水を、どのように処理するかの検討が続けられています。「このまま貯め続けよ」との意見もあるようですが、敷地内でのタンクの増設が限界に来つつあります。このまま、貯め続けるわけにはいかないのです。
そして、それを減らさないことには、これらの水とタンクが増え続け、それは大熊町と双葉町に引き受けてもらうということなのです。使用済みのタンクの部材は、放射性廃棄物となります。
処理をして減らさないと、両町にさらなる負担を押しつけることになります。その点を認識してください。

1990年代、地方からの国政改革

2020年7月14日   岡本全勝

7月8日の朝日新聞夕刊「代の栞」は「「鄙の論理」1991年刊、細川護熙・岩國哲人 もの申す知事」でした。
細川護熙・熊本県知事は・・・《国民生活に密着していない中央官庁が、現実に即応していない法律を盾にとって、立ちはだかるから、あちこちに矛盾が出てくる》。1991年の『鄙(ひな)の論理』で中央集権や官僚制度、東京一極集中の弊害を指摘し、「地方から反乱を起こそう」と呼びかけた。
刊行後に知事を退任。臨時行政改革推進審議会(第3次行革審)部会長として地方分権策を提言したが、壁は厚かった。「朝から晩まで議論し苦心して答申したが、無視された。いよいよ官僚主導の縦割り行政に腹が立ち、それなら新党を、となったのです」

翌92年に日本新党を立ち上げ、参院選比例区で自身や小池百合子氏(現都知事)ら4人が議席を得た。日本新党ブームが起き、93年の衆院選では、くら替えした自身や小池氏に加え、野田佳彦氏や枝野幸男氏ら計35人が当選。選挙後、非自民・非共産8党派による連立政権ができ、首相に選ばれた。公選知事経験者として初めての首相だった・・・

・・・ 地方政治が国政に与える影響に詳しい砂原庸介・神戸大教授は、コロナ対応で「選挙や党派的な事情から強く発信した例があったが、総じて知事たちが大きく変わったようには思えない」と語り、知事が目立つのは国会議員や国政政党が弱くなったからだと指摘する。「個々の議員が盛んに口先介入や発信をするわけでもない。議員や党をバックアップするブレーンや専門家が手薄で、霞が関頼みになり、発信する材料すらないように見える」

危機対応時は行政の長に期待が集まりやすい、という中北浩爾・一橋大教授(現代日本政治論)は「政権がうまく対応できなかった分、首相ではなく、地方行政の長である知事が注目された」と考える。
再び感染が拡大すれば、政治はより不安定になると予測する。「既存政党は、支持組織の動きが鈍り、弱くなる。ポスト安倍も見えず、真空状態が続けば、ポピュリズムが台頭する余地ができ、何が起きるかわからなくなる」
コロナ時代ゆえの「雲の切れ間」ができたとき、知事たちは何を発信するのだろう・・・

被災地視察の案内

2020年7月13日   岡本全勝

12日日曜日、13日月曜日と、原発被災地視察の案内をしてきました。先週に続き、日曜日からの出張です。
この3か月間、福島と東京との往来が制限されていたので、東京から視察に来ていただくことができませんでした。解除されたので、次々と視察に来てもらっています。忙しい方々は、休日も利用しての視察になります。そして、泊まりがけでの視察になります。

政府や与党などの関係者は、毎年、そしてしばしば現地を視察してくださいます。どこが進んで、どこが進んでいないか。特に、今後の課題を見ていただくことが、政策を進める上で重要です。
発災当初から復興に関与してくださっている方もおられます。これまで9年間の歩み、そして当初の頃の混乱や困難を知っておられます。これは、ありがたいことです。

津波被災地、中心市街地の力の低下

2020年7月13日   岡本全勝

7月11日の読売新聞、毎月11日に連載している「大震災 再生の歩み」は、「客層変化 仕切り直し」でした。女川町で再開したスーパーマーケットの状況です。
・・・ 東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受けた宮城県女川町でこの春、町唯一のスーパーが営業を再開した。社長の佐藤広樹さん(39)は9年ぶりの店で張り切るが、客層や売れ行きの変化に戸惑いも覚える。長い歳月をかけた大規模な復興事業によって、町の仕組みが変わり、中心市街地の力が低下したのだ・・・

・・・女川港やJR女川駅の周辺は住宅や商店が密集し、約4000人が暮らす町の中心部だった。しかし震災後、一帯は災害危険区域に指定され、家が新築できなくなった。住民は、造成された高台の住宅や町外に転居した。「中心から人がいなくなった。ドーナツみたいに」と佐藤さん。
駅前から500メートル離れた高台の災害公営住宅に移り住んだ女性(80)。以前は毎週、おんまえやに自転車で行く常連だったが、新店舗に足を向けたのは2回だけだ。「高台なので帰りが大変。バスもあるけど本数が少なくて」

佐藤さんによると、野菜の売り上げは半減し、米は10キロ袋より5キロ袋がさばける。弁当や総菜の売り上げは1・5倍に伸びた。客単価は震災前から250円ほど下がった。佐藤さんは「1世帯あたりの『胃袋』が小さくなった」ように感じる。
町の人口は震災直前の1万人から約4割減って6300人になり、1世帯の平均人数も2・6人から2・0人に低下した。この9年で復興を待ちきれない子育て世代が町外に出て、2~3世代の同居が減り、単身者の割合が増えた・・・

このような変化は、津波被災地だけでなく、日本中で起きていることです。連載「公共を創る」第48回で述べました。津波被災地では、徐々に進んでいた高齢化、過疎化が一挙に進んだので、それが目立ちます。