中国古典に共通する仕事の仕方

肝冷斎が、中国古典の中に、仕事のコツを見つけました。「呻吟語」より「三種方便」
私の「明るい公務員講座」と共通するようです。少々強引とも思えますが。

我嘗自喜行三種方便。甚於彼我有益。
不面謁人。省其疲於応接。
不軽寄書。省其困於裁答。
不乞求人看顧。省其難於区処。

・・・明・呂坤「呻吟語」応務篇より。一瞬、①要らん会議はするな、②無関係な人にまでメールで同送するな、③とりあえず「はい」と言っておけ、という岡本全勝さんの教えを思い出しました。ちょっとづつ違いますが、実は一緒ことを言っているのかも。でもよく考えたら、同じような組織人の行動を真摯に考えたら、同じような結論になるのは当たり前ですね・・・

資生堂、人事をジョブ型に

NHKウエッブサイト「資生堂流人事の極意 “脱・年功序列”で会社が変わる?」(7月22日掲載)から。
・・・終身雇用・年功序列の日本型雇用とは異なる制度として、最近、ビジネス界で話題になっている「ジョブ型」という働き方。仕事の質や成果をより評価する人事制度です。資生堂は来年1月から、一般社員およそ3800人を対象にジョブ型を導入、思い切った改革が始まります。ジョブ型の導入で社員や会社はどう変わるのか。6年前、外部から招かれて資生堂のトップになり経営改革に取り組む魚谷雅彦社長に聞きました・・・
魚谷社長
「資生堂は変わらないといけないという強い危機感を持っていました。10年後、20年後、100年後を考えると、グローバルでの成長をさらに進めていかないといけない。そのためには、会社の中の風土やプロセス、仕組みの再構築を行い、社員の多様性や働き方の柔軟性を持たせないと会社の未来は作れないと思っています」

「資生堂を変える」ために、魚谷社長が今、変えようとしているのが人事制度です。5年前の2015年から、本社の管理職およそ1200人を対象にジョブ型の制度を導入。来年1月、一般社員およそ3800人を対象に制度を拡大します。
日本の大企業を中心に広がっている終身雇用・年功序列といった「メンバーシップ型」の雇用制度ではなく、「ジョブ型」を取り入れることで、多様なバックグラウンドを持つ社員を登用し、その個性を引き出して会社経営に生かすことがねらいです。
魚谷社長
「ジョブ型を取り入れている欧米の企業の在り方がすべて称賛すべきことだとは決して思っていません。ただ、私はジョブ型が『究極の適材適所』だと考えています。ダイバーシティー(多様性)を進めるうえで、女性の活躍を推進するだけでなく、外国人にもっとビジネスに参画してもらう。あるいは新入社員から育ってきている人と同時に、外部から採用して入ってもらうなど、さまざまな形で人材の多様性を高めていくとなると、新卒一括採用・年功序列・終身雇用といったいわゆる日本型の雇用慣行は、高度成長期の日本ではよかった仕組みだと思いますが、今の時代に合わなくなってきていると思います」

管理職を対象にした資生堂のジョブ型雇用は具体的に次のような仕組みです。
・営業・開発・マーケティングなどおよそ20の部門で各ポストに応じたグレード(職級)を設定。
・社員は、自分の持つ専門性や職務経験などを考慮したうえで、希望するポストを会社側に伝える。
・会社側は、ポストで定めた専門性や経験に対して社員の適性を見てグレードを定め、要件を満たすポストに社員を登用。
・ポストについた社員は直属の上司と面談し、今後達成する目標や具体的な計画などを決め、ジョブディスクリプション(職務記述書)と呼ばれる文書を作成。
・ジョブディスクリプションで決めた目標の達成度合いに応じて、給与や次のポストが決まる。

魚谷社長は、ジョブ型を導入すること自体が目的ではなく、多様な個人の力を伸ばすことで、ビジネスにイノベーションを起こし、企業価値の向上につなげることが重要だと話しています。

経済統計、官と民

7月17日の日経新聞オピニオン欄、渡辺安虎・東大教授の「コロナ第1波、ミクロデータ検証を」から。

・・・世界的に新型コロナウイルスの流行が第2波を迎えつつある。第1波の経験から何を学び、どう対応するのか。その際に最も知りたいのは、第1波が経済にどのような影響を与え、経済対策がどのくらい効果があったかだろう。
コロナ危機はこれまでの金融危機や経済ショックとちがい、経済主体による影響の異質性が極めて高い。企業であれば業種や取引相手、顧客の種類により減収幅などが大きくばらつく。個人も職種や年齢、性別、正規か非正規か、といった属性により影響度合いが異なった。

この影響の異質性を、集計された公的統計から知ることは困難だ。例えば製造業の公表数字があっても、アルコール消毒液を作る企業もあれば、自動車部品を作る企業もある。公的統計はあくまで集約した数字が公表されるだけだ。統計の基になる個票レベルの「ミクロデータ」への機動的なアクセスは、政府外には閉ざされている。

この4カ月間、コロナ危機をめぐる日本経済に関する論文などで公的統計のミクロデータを使ったものは私の知る限り存在しない。素早く発表された分析は全て民間データを使っている。東大の研究者はクレジットカードの利用データを用い、一橋大などのチームは信用調査と位置情報のデータを使った。米マサチューセッツ工科大のチームは日本の求人サイトのデータを分析した。
一橋大と香港科技大のチームは自ら消費者調査会社にデータの収集を依頼した。このプロジェクトに至っては、政府による数兆円規模の補助金の効果を分析するため、クラウドファンディングで200万円の寄付を募るという綱渡りを強いられている。
政府統計の問題はミクロデータへのアクセスが閉ざされているだけではない。行政データのデジタル化の遅れにより、解像度と即時性を兼ね備えたデータがそもそも存在していない。これらの点はすぐに改善は望めないので、当面は民間データの利用を進めるしかない・・・

組織構成員の分類その3。階級の区別

組織構成員の分類その2。能力差」の続きです。その1で、次のように説明しました。
B 上下の分担は、部長、課長、補佐、係員、平社員・職員です。また軍隊では、将官、士官、下士官、兵の区分です。「階級」(rank)です。一般的には、管理職、中間管理職、平職員の3段階に区分します。

諸外国の職場や、戦前の軍隊など、この階級差ははっきりしていて、給与や処遇だけでなく、食堂や便所まで違う場合もあります。
この区分をあまり際立たせない、なるべく平等にするのが、日本型職場でした。会社の中に「身分」や「階級」をつくらない。これが戦後日本の民主主義や平等意識の反映であったと、小熊英二著『日本社会のしくみ』(2019年、講談社現代新書)は指摘しています。

それが、かつては職場の生産性を上げ、近年では生産性の低さを生んでいると、私は考えています。
多くの組織において、目標を効率的に達成するには、管理職・中間管理職・職員という階級区分が必要です。それは、軍隊でも会社でも役所でも同じです。管理職は、その組織が何をすべきかを考え、それを中間管理職に指示します。中間管理職は、管理職の指示に従い、業務を達成するために、職員に指示し職員の仕事ぶりを管理します。職員は、中間管理職に指示されたことを実行します。
日本の職場でも、管理職、中間管理職、職員(社員)の区分はあります。しかし、その区分による職務の違いが、明確でないのです。
上司も部下も、みんなが一体となって一つの仕事に取り組む。それは、組織への一体感をつくり、全員で仕事をやり遂げるという長所を持っています。職場でのカイゼン運動は、その一つの表れです。
ところが、それが管理職と社員の仕事と責任のあいまいさを生みました。なるべく、上司による命令や指示という形を取らず、部下から意見をあげていく、全員が納得して仕事を進める形がよいとされました。稟議制もその現れです。しかし、その組織の進むべき方向を決めたり、新しい仕事の目標と期限を決めたりする場合には、管理職が責任を持って、時には部下全員の同意を得ることなく、決める必要があるのです。

管理職が、管理職の仕事をすること。部下の合意取り付けに労力をつぎ込むのでなく、責任を持って指示を出すことが必要なのです。管理職が責任を果たしていないことが、日本の職場の生産性の低さの原因の一つです。
この文章は、「管理職、中間管理職、職員の区分」で書いたことの要約・再掲です。参考「フランスの経済エリート
この項続く

砂原庸介教授「国の政治主導、地方の政治主導」

月刊『中央公論』2020年8月号は、特集「コロナで見えた知事の虚と実」です。砂原庸介・神戸大学教授が、2人の知事に取材をし、取材後記として「国の政治主導、地方の政治主導」を書いておられます。詳しくは原文を読んでいただくとして。

・・・全国知事会での対策を主導した二人の知事から異口同音に語られたのは、今回の新型コロナウイルス感染症対策の中で、国が地方からの要求に対して非常に応答性が高かったということである。これまで災害のような緊急時において、しばしば国は地方から、反応が遅いとか不十分であるとか、どちらかといえばネガティブな評価をされるのが通例だった。それに対して今回は、知事から西村康稔新型コロナ対策担当大臣、加藤勝信厚生労働大臣という二人の担当大臣へと行われた要請が、迅速に、時には知事たちの期待上回るかたちで実現したことについて、知事たちも積極的な評価をしているように思われる。

このような変化は、第二次安倍政権において時には批判的に論評される「政治主導」のひとつのあらわれともいえる。従来見慣れた風景は、知事が地方官僚を引き連れて中央省庁に陳情し、「縦割り」省庁間の調整で当初の要請とはかけ離れた決定が行われるというものだった。しかし感染の懸念も後押しするかたちで知事たちは政治に対して直接要求を届け、それを受け取った大臣は何らかの反応を求められることになる。各省間の調整よりも、内閣官房を中心としたトップダウンの調整が行われるようになったことが、応答性の向上をもたらした側面があると考えられる・・・

なお、砂原教授による同号の巻頭言「情報が歴史になるには」も、鋭い指摘です。合わせてお読みください。