日本語が読めない、書けない子供たち

3月22日の読売新聞言論欄、新井紀子・国立情報学研究所教授の「国語教育の改革 AI時代 読解力で生きる」から。

・・・日本の子供たちの読解力に危機感を持っています。
今回のPISAで衝撃を受けたのは、読解力が米国と同レベルだったことです。日本は、両親の母語も、生活言語も日本語という子供が圧倒的に多い。それに比べて、米国は移民が多く、家庭では別の言語を使うこともある。言語は自然に身につくという前提がないんです。
日本が、そういう国並みなのは、言語政策の長期的な無策が影響しているのだろうと思います。
米国やドイツ、フランスも、学校に多様な背景を持った子供が入ることを前提に、それぞれの子が本当に読めているか、書けているかを科学的にチェックし、体系的・段階的に必要な言語支援をしています。
しかし、日本では、子供の語彙ごいの量や、言葉の係り受けがどこまでわかっているか、といったことを十分に調査してこなかった。

1990年代初頭のバブル崩壊や、2008年のリーマン・ショックを経て、「一億総中流」といわれた同質性が崩れ、家庭も多様になってきました。テレビ、新聞、ラジオといった共通のメディアを視聴することが減り、語彙の共通部分もすごく小さくなった。家庭の経済格差や地域格差が広がり、普通に過ごしていれば誰もが自然に日本語が読めたり書けたりする状況ではなくなったことを認識すべきです。

東京都内のある小学校では、4年生のクラスで自分の名前を漢字で書けない子が半数を占めていました。授業では、穴埋め式のプリントにキーワードを書き込んだり、タブレット端末でキーを選択したりすることが多く、文字を書く機会が激減しています。ノートの取り方もわからない。筆圧が弱く、きちんとマス目の中に書けない状態です・・・

NPOによる被災者自立支援

3月24日の日経新聞に「被災者の伴走続ける 岩手・大槌の仮設住宅、今月末閉鎖 転居後の生活民間支援」が載っていました。

・・・東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県大槌町などで、孤立や生活の困窮など様々な問題を抱える被災者らを支援し続ける民間団体がある。公益財団法人「共生地域創造財団」(本部=宮城県石巻市)は3月末で応急仮設住宅を閉じる町から、災害公営住宅などへ転居する住民を支援するよう委託された。転居後の生活を見据え、文字通り生活全般に伴走する・・・

この財団は、大槌町や石巻市の委託を受けて、被災者の転居を支援しています。転居先の物件探しや引っ越しの相談にとどまりません。被災によって、家族が抱えていた引きこもり、貧困、病気が深刻になります。役場にも、福祉、教育、健康などの窓口はあるのですが、縦割りです。また、これまでの行政は、本人からの申告を待って動きます。困って声を出せない人は、漏れ落ちるのです。
これからの行政の姿を先取りしていると思います。

予想外の出来事に対応する

この夏に予定されていた東京オリンピックが、延期になりました。新型コロナウィルス感染症の世界的流行で、やむを得ません。
延期になって、その対応作業が多岐にわたり、関係者の方は大変な仕事になると予想されます。日程の再設定、関係競技団体との調整、施設の確保、宿泊施設の確保、費用分担・・・。

私は、次のようなことを、頭で体操をしていました。
もし、この感染症の流行が、オリンピック開催の1か月前だったらどうなるか。あるいは、オリンピック開催中に発生したらどうなるか。
今回は、4か月前に判断することができました。この期間でも、さまざまな混乱が出るでしょう。しかし、直前や開催中だったら、その比ではありません。
また、地震のように予期できず突然来る災害と、今回の感染症のようにじわじわとやってくる病気とでも、対応の仕方は変わってきます。伝染病でも、今回より強毒性のものだと、また違ってくるでしょう。

何を優先して、何を我慢してもらうか。責任者と関係者は、難しい判断を迫られます。「平時ではない」ので、多少の混乱は致し方ありません。
国民に、それを納得してもらう説明が必要です。

個人消費拡大のために

3月20日の日経新聞オピニオン欄、門間一夫・みずほ総合研究所エグゼクティブエコノミストの「個人消費の弱さをどう見るか」から。
・・・個人消費が弱い。最近の消費税率引き上げや新型コロナウイルスの影響のことだけを言っているのではない。アベノミクスの7年間を通じて、個人消費は0.4%しか増えていない。同じ期間に設備投資は15.5%増加して景気の拡大を支えてきた。7年間の実質国内総生産(GDP)成長率が平均0.9%にとどまり、アベノミクスが目指す2%の半分にも満たなかったのは、ひとえに個人消費がゼロ成長だったためである・・・

・・・もう一つの考え方は、財政や社会保障の持続可能性のためにも、より高い成長を目指すというものだ。アベノミクスもこの考えでやってきたが、個人消費がゼロ成長ではどうにもならない。イノベーション(技術革新)の促進や規制改革も重要だが、もっと家計重視型の成長戦略を進める必要がある。個人の所得形成力を強化し、将来不安を軽減するため、大胆な財源の拡充や組み換えが求められる。
例えば介護、保育、教育などは、所得形成や暮らしの安心につながる重要な社会インフラだが、長年にわたり現場の疲弊が続いている。こうした外部効果の高いサービスは、公的支援の一段の増強なくして、社会的に望ましい量や質は確保できない。

また人生100年時代に向かい、人工知能(AI)などの技術革新も進む中、リカレント(学び直し)教育も社会インフラと位置づけるべきである。いかなる年齢、バックグラウンド、経済状況の人にも、第二、第三のキャリア形成への道が広く開かれているという安心感こそ、不確実な時代の家計行動を支える基盤となる。国も取り組みを進めてはいるが、熱量や財政的支援は足りているだろうか・・・

長時間労働是正の条件、その3

3月20日の日経新聞経済教室「長時間労働是正の条件」、中原淳・立教大学教授の「業務・時間・意思疎通を透明に」から。

・・・残業発生のメカニズムは「集中・感染・麻痺・遺伝」という4つのキーワードにより説明できる。
1つ目の「集中」とは、一部の特定の優秀な人材に業務量が集中しがちなことだ。スキルが高い社員に残業が集中している。「優秀な部下に優先して仕事を割り振る」と答える管理職は6割を超える。短期的な成果を追求するには、優秀なメンバーに仕事を割り振る方が効率的というわけだ。

2つ目の「感染」とは、職場でまだ働いている人がいると帰りにくいという雰囲気だ。先に帰ってはならないという同調圧力が最も残業に影響している。こうした同調圧力は若い人ほど感じやすく、20代は50代の2倍近くも帰りにくさを感じている(図参照)。また上司の残業時間が長くなるほど、上司のマネジメントの質が低いほど、部下の帰りにくさは増していく。

3つ目の「麻痺」とは、心理的状況と身体的状況がちぐはぐになり、客観視できなくなる状況だ。月60時間未満までは残業時間が増えるほど主観的幸福感が低下していくが、60時間を超えると幸福感の増加に転じることが明らかになった。残業への没入感、他者から頼られているという実感がそれに関係する。

4点目の「遺伝」とは、上司の過去の残業経験が部下の残業時間に強く影響するということだ。新卒入社時に残業が当たり前という文化に染まっていた人は、上司の立場になっても部下に残業をさせやすい。こうした傾向は転職後の会社でも消えずに残る。つまり残業習慣は上司と部下という世代だけではなく、組織さえまたいで受け継がれる。

多くの企業では既に残業そのものをやめさせたり、残業時間に制限をかけたりしている。こうした時間制限型の施策は、個々人の残業習慣、つまり残業麻痺や残業代依存には対症療法的な効果を期待できる。
だがこの方法の効果は限定的で、否定的な影響も及ぼす。残業施策を打ち出すと社員の37.1%が効果に疑問を持ち、23.2%が施策に従わない方法を考え、「経営や人事は現場を分かっていない」との不信感を持つようになる。また時間制限型だけの施策ではストレス・健康不安が高まり、働きがいや組織への愛着が減少し、離職意向も高まる・・・

かつての私の経験にも、思い当たることがあります(反省)。対策も書かれています。原文をお読みください。