3月20日の日経新聞経済教室「長時間労働是正の条件」、中原淳・立教大学教授の「業務・時間・意思疎通を透明に」から。
・・・残業発生のメカニズムは「集中・感染・麻痺・遺伝」という4つのキーワードにより説明できる。
1つ目の「集中」とは、一部の特定の優秀な人材に業務量が集中しがちなことだ。スキルが高い社員に残業が集中している。「優秀な部下に優先して仕事を割り振る」と答える管理職は6割を超える。短期的な成果を追求するには、優秀なメンバーに仕事を割り振る方が効率的というわけだ。
2つ目の「感染」とは、職場でまだ働いている人がいると帰りにくいという雰囲気だ。先に帰ってはならないという同調圧力が最も残業に影響している。こうした同調圧力は若い人ほど感じやすく、20代は50代の2倍近くも帰りにくさを感じている(図参照)。また上司の残業時間が長くなるほど、上司のマネジメントの質が低いほど、部下の帰りにくさは増していく。
3つ目の「麻痺」とは、心理的状況と身体的状況がちぐはぐになり、客観視できなくなる状況だ。月60時間未満までは残業時間が増えるほど主観的幸福感が低下していくが、60時間を超えると幸福感の増加に転じることが明らかになった。残業への没入感、他者から頼られているという実感がそれに関係する。
4点目の「遺伝」とは、上司の過去の残業経験が部下の残業時間に強く影響するということだ。新卒入社時に残業が当たり前という文化に染まっていた人は、上司の立場になっても部下に残業をさせやすい。こうした傾向は転職後の会社でも消えずに残る。つまり残業習慣は上司と部下という世代だけではなく、組織さえまたいで受け継がれる。
多くの企業では既に残業そのものをやめさせたり、残業時間に制限をかけたりしている。こうした時間制限型の施策は、個々人の残業習慣、つまり残業麻痺や残業代依存には対症療法的な効果を期待できる。
だがこの方法の効果は限定的で、否定的な影響も及ぼす。残業施策を打ち出すと社員の37.1%が効果に疑問を持ち、23.2%が施策に従わない方法を考え、「経営や人事は現場を分かっていない」との不信感を持つようになる。また時間制限型だけの施策ではストレス・健康不安が高まり、働きがいや組織への愛着が減少し、離職意向も高まる・・・
かつての私の経験にも、思い当たることがあります(反省)。対策も書かれています。原文をお読みください。