2月13日の日経新聞オピニオン欄、中村直文・編集委員の「流通0強の時代に セブン・イオン、拡大の大義薄れる」から。イオンがスーパー業界で、セブンイレブンがコンビニで、拡大路線で勝利したことを紹介した後で。
・・・流通2強の競合時代を振り返れば、安さだったり、便利さだったり、消費者が望む”大義”が成長の原動力となってきた。2強は平成の三十数年の間、ショッピングセンター(SC)とフランチャイズ(FC)に金融を絡めたモデルでのしあがった。物量の規模で他社を圧倒、生活インフラとしての価値を生み出した。
ところが、追いすがる敵のいない頂上で、予想もしなかった逆風にさらされている。新しいデジタル消費の現実、アマゾンなど外資の攻勢に対して、足元を固めるのに精いっぱい。勢いが感じられない。業界内、消費者に対して大義を示せないのであれば、それは強者とは呼べない。その意味で、流通は「0強」の時代に突入した。
恐らくこの先、イオンとセブンを中心とした再編劇は見られなくなる。撤退した小売りや店舗の買い手はつかず、各地に荒涼とした風景が広がりそうだ。
1月に突如営業を終了した山形市の百貨店、大沼はその最たる例といえる。00年代、地方中心都市の百貨店なら必ず買い手がついた。三越伊勢丹ホールディングスが系列化を進めた札幌の丸井今井、福岡の岩田屋などがそうだ。これからは単に空き店舗になるだけ。山形県に続き、百貨店の空白県が生まれるだろう・・・
・・・日本経済の本質は海外のコンセプトやアイデアを企業がうまく取り込み、日本人の感覚に合う形にかみ砕き、市場を広げたところにある。流通だけでなく、メーカーも同じだ。島国であることも奏功し、外資からの攻勢を免れた。
だが、デジタル時代で風景が変わった。実物に頼らない経済のソフト化はアイデアなど知的資産がものを言うし、リアルタイムの勝負になる。産業界はこのことを理解しながら手を打てていない。かつての強者が苦しむ姿は流通だけではない。電機、情報機器など様々な分野で、業界をけん引してきた巨人企業が方向感を見失っている。ネット産業も強者は海外。国内に世界企業はいない。
もっとも消費者は楽しんでいる。アマゾンやフェイスブック、ディズニーランドやユニバーサル・スタジオを。だがこれでは国力があがるとはいえない。インバウンドであれ、アウトバウンドであれ、世界で売れるグローバルコンテンツがない限り、どんどん国民の消費の棚は海外で埋め尽くされる。令和の時代、自立性なき未来を楽しんでばかりもいられない・・・