2月11日の日経新聞「私見卓見」、小熊英二・慶応義塾大学教授の「専門人材の評価、世界基準で」から。
・・・IT(情報技術)や金融など知的産業が台頭するなか、世界では専門的な技能や知識をもとにした人材の評価基準の共通化が進み、国をまたいだ高度人材の流動化が加速している。だが日本は独自の進化を遂げた雇用慣行のため、世界から隔絶されている。それぞれの企業の枠組みを超えた客観的な評価基準なしに、高度人材の獲得は難しい・・・
・・・日本企業の人材評価は基本的に、企業横断的な客観基準でなく、個別企業内で従業員を長期観察することでなされてきた。そこではどの職務に配置されても適応する熱意や協調性を「職務遂行能力」と評価してきた。この慣行は、製造業の現場従業員のモラルを高めると評価されたこともある。
だがこの日本型は、従業員数が少なく、社長が従業員を観察できる中小企業向きの評価システムだ。それを大企業にまで適用してきたのが日本の特色といえる。
欧米などでは、会計やマネジメントなどの職務がまずあり、職務の専門能力を持つ人材を登用するのが基本だ。素人がIT開発をできないように、マネジメントの専門能力がない人は、管理や経営はできないと考える。評価基準も職務ごとに企業を超えて共通化が進み、個人は同じ職務で企業を移りながら専門性を高めキャリアを築く。1つの企業内で様々な職務を異動する日本の慣行とは異なる・・・
・・・専門職を評価する基準は、もはや国境を越えて共通化が進んでいる。専門性の評価基準がない雇用慣行を続ければ、わざわざ日本で働こうとする高度人材はいなくなる。それは労働市場に限らず、企業活動が次第に国内に閉ざされていくことも意味する。まずは採用や昇進、異動などの際に結果だけでなく、過程や基準を透明化し公開してみてはどうか。米国なども過程や基準の透明化・公開により、基準の客観・横断化が広がった歴史があるようだ・・・