1月31日の朝日新聞オピニオン欄、イギリスのヨーロッパ連合離脱について、「勝者なき離脱」。その2。ジル・ラッター、イギリス政府政策研究所上席研究員の発言「もはや別の国、名声どこへ」から。
・・・昨夏就任した英国のジョンソン首相は、この半年間で首相らしい仕事を何一つ、していません。ジョンソン政権は政府ではなく、ある種のキャンペーンと化していました。議会で多数派を勝ち取ることが目的のキャンペーンです。
政権が挑んだのは、一つは議会との戦争でした。EUからの離脱に乗り気でなかった英議会に対し、政権は対決姿勢を鮮明にしました。もう一つは、司法との争いです。議会を閉会させて動きを封じ込めようとしたジョンソン政権に対し、最高裁がこれを違法とする判断を示したからでした。
ジョンソン首相は、総選挙に持ち込むことによって、これらの戦いでの勝利を収めたのです。では、勝ったからそれで良かったのか。
英国はかねて、法制度や行政システムの安定度、公務員の公平性、議会の効率性や司法の独立の面で、各国のモデルとなってきた国でした。その評判は、一連の騒ぎで大きく損なわれました。
法の支配と司法の独立を確立しようと努めてきた国なのに、首相が法にあえて挑戦し、閣僚が司法のあら探しをした。政権の行為の違法性も問われた。これで、従来の英国の名声が保たれるでしょうか。他国に向かって「良きガバナンスとはこういうことです」と説教してきたのに、まるで自らが腐敗したかのようではないですか。
英国の官僚についても同様です。政治任命が常態化している米国などとは異なり、英国の官僚は不偏不党を基本とし、どんな立場の政治家にも公正に仕えることで、高い評価を得てきました。しかし、EU離脱を巡っては、そうした関係が崩れました。「離脱」を信仰のように奉る一部の政治家は、「官僚は離脱の作業を妨げているのでは」と疑いました。
その結果、英国は以前と比べてどこか異なる、別の国になってしまいました・・・