労働における負の連鎖

12月31日の日経新聞経済教室、小原美紀・大阪大学教授の「貧困の現状と対策(下)労働巡る負の連鎖を断ち切れ」から。

・・・日本の世帯間格差は2000年代後半まで緩やかに拡大した後、高止まりしている。18年の経済協力開発機構(OECD)統計によれば、他の先進諸国でも同じ傾向にある。先進国の格差拡大の背景には高齢化の進展がある。加齢とともに世帯間格差は通常拡大するので、高齢者が増えれば社会全体の格差は大きくなる。
また技術革新とともに教育を受けた者とそうでない者の差も拡大したといわれる。高度な技術を使える者への収益が相対的に増えたことに加え、技術に見合う教育を受ける者が増えていないことも指摘される。
だがこれらだけでは日本の世帯間格差の特徴を説明できない。日本では働いているかどうかの差よりも、働いている者の中での格差が拡大している。特に低所得階層の増加が背景にあるといわれる。これは所得よりも、包括的な世帯の厚生(満足度)を表すとされる消費でみた場合にも当てはまる。多くの先進国でみられる高所得層がますます富む現象とは異なる特徴だ・・・

・・・このように、働きながらも低い階層に分類される世帯の経済厚生は低いとされる。その何が問題なのか。一つにこのグループに属する世帯が将来を考えた行動をとりにくいことがある。例えば不慮の事態、特に好ましくない出来事の発生に備えた貯蓄や投資がなされにくい。そして予備的行動をとれない世帯の方が、負の出来事に直面する確率が高く、発生したときの厚生の損失が大きい可能性もある。このことは個々の世帯の問題にとどまらない。社会全体の厚生の損失だ。
さらにそうした世帯に子供がいれば、予備的な行動をとらないことは長期的な厚生の損失につながる。次世代への負の連鎖である。「Great Gatsby Curve」として知られるように、格差が大きい国で階層移動が少ないという関係がある。これによれば格差が大きい社会では、低所得階層の親から生まれた子供が低所得階層にとどまる確率が高い・・・

・・・貧困層を含む低所得階層で負の連鎖が起きる背景に意欲を持てないことがあるのならば、推奨される行動をとったときに得られる便益を高める必要があるだろう。例えば子供が医療サービスを受けるといった将来のためになる消費に対する補填が求められよう。子供の厚生でいえば、子供が選択する高等教育への補助拡充も望まれるだろう。消費に対する補助ならば、労働意欲を阻害しない。
労働に関する負の連鎖については、厚生の損失が長期にわたり発生するならば、なるべく早い段階でそれを断ち切る政策が必要だろう。若い時点の方が高い生産性を引き出せるし、社会への貢献も大きい。
貧困層を含む低所得層への補助政策には反対意見も聞かれるが、その多くは意欲を阻害することに対する批判だ。そもそも最初に生活困窮状態に陥ったのは、本人の非によるものだけではない。また理由は何にせよ、生活困窮に陥った者の生活補填は社会的費用となる。さらに格差の存在が機会の平等をゆがめることで階層移動の少なさにつながっているならば、政策で是正されるべきだろう。
次世代の高い生産性を引き出すためにも、貧困層の意欲を阻害しない補助政策が社会全体のため必要だ・・・

災害時施設運営管理者研修

災害時施設運営管理者研修を紹介します。NPOの「ダイバーシティ研究所」が行っている研修です。

災害時に、多くの人が近くの施設、公民館や体育館などに避難してきます。そこが、避難所に指定されていても、いなくてもです。
ところが、それらの施設の職員は、必ずしも、避難所運営の知識と経験を持っていません。さらに、近年は、公共施設の運営が民間委託され、職員が公務員でないことも多いのです。電気設備の保守点検の専門家や運動の指導員だったり。

これまでは、「緊急時だから、仕方ないよな」と言っていたのですが、これだけ災害が多発し、避難所暮らしが長引くと、そうも言っておられません。
生活環境も充実しつつあります。例えば、床にマットや畳を敷く、プライバシーのために間仕切りを作るなどです。
避難所運営の知識と経験の差で、避難所での混乱を防ぎ、避難者により快適な生活を送ってもらうことができます。

この研修は、東日本大震災や熊本地震等で実際に避難者支援活動に携わった経験や知見に基づき作成された研修プログラムです。
良いところに、目をつけてくださいました。
各自治体の方に、お勧めです。

ネット口コミ

日経新聞「やさしい経済教室」、菊盛真衣・立命館大学准教授 の「ネット口コミを読み解く」。「(4) 「星」の数は頼れるか」(12月25日)、「(5) 「星」のばらつきに注目 」(12月26日)から。

・・・あなたは友人へのギフト用に大手通販サイトでワインを探しています。商品は5つ星で格付けされ、その横には総合評価を示す点数が表示されています。大半は総合評価が3点台で星3つですが、その中に総合評価が4.7点で、星が4つ半のワインを見つけました。これ以外のワインを探したくなるでしょうか? 多くの人が探すのをやめるでしょう。このように星の数で商品を評価してしまうことが、e口コミの「星の罠(わな)」です。・・・
・・・星の数、つまり総合評価が消費者の購買決定に影響するのは、人が確証バイアスに陥るためです。確証バイアスとは、最初に抱いた考えを支持する情報を重視する傾向です。星の数が多いと、消費者はその商品の品質が購買者から高く評価されていると判断します。その商品を良いと信じた消費者は、個々のe口コミを読み進める際に、自分の考えと合わない否定的な内容より、自分の考えを支持する肯定的なものばかりに注目し、その影響を受けて購買に至ります。逆に星の数が少なければ、品質が悪いと早々に見なして選択肢にすら入れません。・・・

・・・総合評価を表す星の数に頼って商品選択をしてしまう「星の罠」。この罠に陥らないための対処法は、星の「ばらつき」に目を向けることです。
e口コミの投稿者は商品を5段階で評価しています。5つ星はその商品が非常に良かったことを、1つ星は極めて粗悪であったことを意味します。大手通販サイト上では、投稿者の評価の分布が棒グラフで視覚化され、1つ星から5つ星までの各段階で、それぞれ何件投稿されているかが一目で把握できます。この評価が一致しているか分散しているか、分布の状況に注目するのです。

星のばらつきを見極めるポイントは、商品のタイプによって異なります。総合評価が3点で3つ星が付いていても、5つ星と1つ星に投稿者の評価が二分している方が購買意欲が高まる商品と、3つ星に集中している方が購買意欲が高まる商品があることが、近年の研究で分かっています・・・

このほかに、投稿の信頼性も推測することができます。多くの人が5つ星や4つ星なのに、一人だけ1つ星の場合。全体傾向とは違う趣味や判断の人なのでしょう。逆に、多くの人が3つ星なのに、一人だけ5つ星の場合。趣味の違う人なのか、サクラなのか。

市場経済は政治による統治のうえに成り立っている

1月5日の日経新聞、連載「逆境の資本主義」は、グレアム・アリソン、ハーバード大学教授のインタビュー「国家主導でも高度な発展証明」でした。

「中国政府の『政党指導の資本主義』が、貧困の激減など経済発展の面で大きな成功を収めてきたのは明白だ。(改革開放が始まった)40年前から、政党が指導する市場経済は他の経済システムよりも高度で持続的な発展をなし遂げてきた」

「中国の成功が意味することは、自由資本主義も含めて全ての市場経済はその国の政治による統治のうえに成り立っているということだ。政治による管理が経済発展などにプラスだと判断すれば、管理強化に向けた動きが加速するのは自然だ」

「『経済発展には個人の自由が不可欠だ』と長年言われてきたが、中国は必ずしもそうではないことを証明している。」