規制当局と企業の力関係

9月16日の朝日新聞オピニオン欄、記者解説。ニューヨーク支局・江渕崇記者の「ボーイング機、信頼失墜 規制当局を圧倒、墜落後も構図不変」から。

・・・737MAXは昨年10月にインドネシアで、今年3月にはエチオピアで墜落し、計346人が死亡した。惨劇の遠因は、その誕生の経緯に潜んでいた・・・
・・・危うい飛行機が世に出たのはなぜか。MAXが安全だとお墨付きを与えたのは、規制当局のFAAだ。「認証」という安全性を確認する手続きを踏んだが、現実には、FAAは人手不足から、重要箇所以外の認証はボーイングの技術者に権限を委任していた。米紙によると、問題の飛行システムの評価すら、ボーイングに委ねられていたという。MAX開発を急ぐプレッシャーの中で、危険性は見過ごされた・・・

・・・15年前から、技術者が問題を見つけてもFAAではなく、ボーイングの上司に報告する決まりに変わっていた。MAXとは別の機体の補修をめぐり、レバンソン氏はエンジンを支える重要部品がFAA基準を満たせないと気づいた。決まり通りボーイングの上司に伝えると、「黙って認証するように」と迫られた。拒むと「10分で机を片付けろ」と職場を追われた、と明かす。
業界が規制当局を知識や力で圧倒し、規制を骨抜きにする――。福島第一原発事故を巡り、東京電力と原子力規制当局の関係で指摘された「規制のとりこ」と呼ばれる構図そのものだ。
FAAの上部組織の米運輸省は12年の内部監査で、「FAA幹部とボーイングの近すぎる関係」を警告したが、見直されないまま時は過ぎた・・・

・・・影を落とすのは、独占で巨大化したボーイングとの圧倒的な力の差だ。
米旅客機産業はかつて大手3社が競ったが、1997年の合併でボーイング「1強」になった。ロビー活動や献金でワシントンににらみをきかせ、歴代政権の大物大使経験者を取締役に迎えた。トヨタ自動車やフェイスブックが問題を起こしたとき、米議会は首脳を呼んで質問攻めにしたが、ボーイング幹部は証言台にすら立っていない・・・