8月6日の日経新聞経済教室は、松井孝治 慶応義塾大学教授の「官僚制の劣化を考える(上) 若手官僚、政治から解放を」でした。
・・・課題は、政治主導の担い手が結局官僚以外に見当たらないことにある。多様な関係者の利害調整を行い、納得を得る着地点を探るには高度な政策知識が不可欠で、政治家がその任にあらざれば、空隙を埋めるのは官邸官僚など幹部官僚しかいない。
官僚の「政治化」、すなわち与党への応答性の高まりは、野党議員の「政治的官僚」への敵愾心をあおり、官僚総体への追及が激化する。結果、中堅若手に被害が及び、霞が関の政策調査・企画資源は着実に蝕まれている。昭和以降、永田町の政治的調整の黒子役を担ってきた官僚たちは、今や政治調整にからめとられ、政治に取り殺されようとしている。
その意味で政治主導の担い手の充実が急務だ。08年制定の公務員制度改革基本法に立ち返り、内閣のもと、若手与党議員が大臣らの指示により政治的連絡調整を行う日本版の議会担当秘書官(歳費以外は無報酬)や非議員の政治任用特別職を増員し、政治任用職と次官・局長ら幹部職以外の政官接触は原則禁止するなどの措置を検討してはどうか・・・
・・・専門性向上の観点からは、民間人材の積極的登用も重要だ。金融、情報通信、知的財産、技術開発など行政の専門化、グローバル化の進展は目覚ましく、霞が関の「内製」のみでは後れを取る。広報、法令順守などの職種は、職責からして外部人材の視点が不可欠だ。政策の競争力を高め、社会的信頼を向上させるべく、職種別、省庁別に中長期的な民間専門人材登用の目標を定め、外部任用を促進する必要がある。
公務員倫理法・倫理規定の精神を尊重しつつも、官僚が霞が関に閉じ籠もらず、現場と交流しやすい環境を作るべく、同規定の弾力化も検討課題だ。国家公務員試験も、より積極的に人材を発掘登用できる抜本的見直しの時期ではないか・・・
・・・明治以来、所管領域ごとに森羅万象を調整する「司祭としての霞が関」は、実質的に立法や司法領域に越境し、憲法に照らし過大な業務を抱え込んだ結果、機能不全を生じつつあるのではないか。与党事前審査の場を事実上設営するのも各府省だし、国会の名において行われるべき野党中心の行政監視機能の受け皿も官僚が担っている。
内閣法制局は実質的違憲立法審査機能を担い、国会が行うべき法案審査は、法制局と各省が政治の意思を踏まえ肩代わりしている。連日連夜、行政に調査を求め、結果が出ればお手盛りと糾弾するのみの国会を改革し、独立して行政監視や独自調査を行う人員体制を国会に整えるべきである。
政党の調査機能の充実も急務である・・・