7月29日の日経新聞経済教室、小峰隆夫・大正大学教授の「参院選後の安倍政権の課題(上) 社会保障改革議論 超党派で」
・・・参議院選挙が終わった。今回の選挙結果は直接的に安倍政権の経済政策に修正を迫るものではない。だがこれを機に、選挙前から引き継がれてきた課題や選挙中に各党が繰り広げた議論を踏まえて、これからの経済政策に求められる基本的な方向を3つ指摘したい・・・
・・・第1は非常時型の実験的・冒険的政策から平時の正統的な政策への回帰を図ることだ。バブル崩壊後の約30年の日本経済は資産価格の暴落、不良債権問題、デフレ、金融危機、2008年のリーマン・ショックなど、次々に未知の課題に直面した。いずれも前例のない出来事だったため、対応は実験的な試行錯誤の連続とならざるを得なかった。
その結果、ゼロまたはマイナスの超低金利が続き、日銀が新規発行される国債を買い占めるとともに一般企業の大株主となり、先進国中最悪の財政状態になった。財政金融政策の姿は持続不可能なものといえる。
一方で、経済の現状はもはや異例の政策対応を必要とするような異常時とは言えない・・・
・・・第2は生産性の向上に本気で取り組むことだ。長期的にみた日本経済の最大の課題は、生産年齢人口の減少(人口オーナス=負荷)という流れに対抗して、生産性を引き上げ、持続的な成長を実現することだ・・・前述の期間、日本の労働力人口は0.7%増加する一方、労働力人口当たりの生産性は0.5%の上昇にとどまる(図参照)。主に動員型で対応してきたということだ。生産年齢人口が減ったのに労働力人口が増えたのは、それまで労働力人口ではなかった女性、高齢者、外国人が参入したからだ。
こうした動員型の対応はいずれ限界に達するから持続可能ではない。また新たに参入してきた労働力は、賃金や生産性の低い非正規労働が中心だった。これが、雇用情勢が逼迫しているにもかかわらず平均賃金があまり上昇せず、平均的な労働生産性も高まらない主要な理由の一つだ。今後は労働者1人当たりの生産性の上昇を主要な目標として成長戦略を練り直すべきだ・・・
・・・第3は超党派で財政・社会保障改革に取り組むことだ。持続的な財政・社会保障の構築が日本経済にとって最重要の課題だと誰もが分かっている。だが参院選での各党の議論は、とても問題の解決に向かっているとは思えないものだった・・・
・・・財政・消費税・年金などの問題は、真剣に議論すれば国民負担を伴わざるを得ない。こうした問題を政争の具、選挙の争点にすると、負担を嫌がる国民にこびる公約が乱発され、問題解決からは遠ざかるばかりとなる。参院選でこのことが改めて確認されたといえる・・・