生産性の劇的向上はもう起こり得ない

6月6日の朝日新聞オピニオン欄、経済学者のロバート・ゴードンさん「低成長時代を生きる」でした。
「画期的発明による生産性の劇的向上はもう起こり得ない」
・・・人工知能(AI)に自動運転、5G。世はイノベーションの話題で満ちているのに、いま一つ経済に元気がない。「長期停滞論」の火付け役の一人、米国の経済学者ロバート・ゴードンさんは「もはや輝かしい過去の再現はあり得ない」という。私たちはもう「低成長」という長いトンネルから抜け出すことはできないのか・・・

「私は1870年からの100年間を、『特別な世紀』と呼んでいます。電気やエンジンといった偉大な発明のおかげで、生活水準と生産性が劇的に上がりました。かつて大半の人々は農村に住み、男性は死ぬまで過酷な労働に耐え、女性は朝から晩まで家事に縛られていました。それが第2次産業革命の数十年で、都市での快適な暮らしへと移ったのです。これは人類史において一度限りの出来事で、匹敵する変化を再現することはもうできません」
「エジソンが電灯を発明したのは1879年ですが、第2次世界大戦前には米都市部のほぼ全世帯に電気が届きます。製造業の動力も蒸気機関から電気に代わり、経済の効率が劇的に上がりました。電灯とほぼ同時期に発明されたエンジンが、自動車や航空機を動かすようにもなりました。こうした発明を土台に、1970年までの半世紀は、毎年ほぼ3%のペースで生産性が伸び続けました」

――70年代に低成長に陥ったのは石油危機がきっかけでは。
「ちょうどそのころ、偉大な発明の効果がほぼ出尽くしたのです。米国ではエアコンが行き渡り、蒸し暑い南部でも快適に仕事ができるようになりました。高速道路網が整い、飛行機もプロペラ機からジェット機に代わった。以来、これら偉大な発明に匹敵する革新は生まれていません。この構図はどの先進国も同じです」
――その後も「第3次産業革命」が起きたはずです。
「デジタル革命ですね。メインフレームと呼ばれる大型コンピューターに始まり、80年代にパソコンが台頭。タイプライターも書類棚も不要になりました。みんながインターネットにつながる時代を90年代に迎え、ここで少し生産性が持ち直しました。しかし、その効果も2005年までにはピークを過ぎました。『特別な世紀』が70年代で終わったように」
――アップルのiPhone(アイフォーン)が登場したのは07年ですが。
「スマートフォンは素晴らしい発明で、消費者の暮らしを便利にしたのは疑いありません。しかし、恩恵は娯楽や通信といった分野が中心です。電気やエンジンほどには、幅広いビジネスの本質を変えたり、生産性を高めたりはしていません。むしろパソコンの発明の方が根本的な革新でした」

参考「例外時代