4月4日の日経新聞経済教室、田中拓道・一橋大学教授の「全世代型社会保障の論点(上) 財源負担への納得感醸成を」から。
・・・まず先進国が共通して直面している課題を、「古い社会的リスク」と「新しい社会的リスク」という言葉で確認しておこう。
かつて社会保障とは、男性稼ぎ主の所得喪失を主たるリスクととらえ、医療保険・年金などを通じて人々の生活を保障するものだった。これらは主に高齢期を対象としていた。
ところがグローバル化と産業構造の変化によって、新しいリスクが生まれてくる。先進国の産業が製造業から情報・サービス業へ移行すると、一時的な失業や不安定な就労が増えていく。事務職やサービス業などで女性の就労が拡大すると、仕事と家庭の両立に苦しむ女性も増えていく。現役世代向けの就労支援、子育て支援がなければ、社会の格差は拡大する。
グローバル化が進む中で政府支出を増やすことは難しい。高齢化の進む国では、古いリスクと新しいリスクへの支出を巡って競合が起きやすくなる。
先進諸国では(1)医療・年金など高齢者向け支出の伸びを抑制しつつ(2)労働力の移動を促進し(3)子育てや教育への支援を拡充するという改革の組み合わせが試みられてきた。
ただし、どの国でも改革がうまく進んだわけではない。特に重要なのは、市場の役割を重視してきた米国や英国で社会の分断が広がり、低所得層を中心に保護主義や排外主義への支持が強まったことだ。各国はグローバル化に適応しつつも国内の格差を抑制し、社会の安定を保つという難しいかじ取りを迫られている・・・