理想主義の教え、その欠点

理想主義と現実主義と現実的理想主義」の続きにもなります。

理想主義が厳しくなると、厳格主義になります。道徳や規則の厳守を主張します。聖人君子を目指す、あるいは目指すことを強要します。武士の教育、遡れば中国古典の士大夫の道徳です。我が身を律し、勉学に励みます。
明治維新以来、日本の教育の主流は、厳格主義であり理想主義でした。立派な大人になることです。戦前は男子なら立派な兵隊さん、博士や大臣を目指します。女子は、良妻賢母になることです。「修身」の授業です。
そこには、本人が自らを律するものと、教師や親が生徒や子に厳しく指導する場合とがあります。

理想主義は望ましいのですが、現実はそう簡単ではありません。すると、タテマエの世界では理想主義を掲げつつ、実際の生活では現実主義になります。問題は、理想主義と現実とのズレにうまく適合できない場合です。
個人にあっては、高い理想とそれに追いつかない自分との差を見て、自分を責めます。そして、つらくなります。

社会にあっては、理想主義を掲げるので、そこから落ちこぼれた人が視野に入りません。落ちこぼれはあってはならないので、その人たちを救う仕組みになっていません。
うまくいかない場合にどうすればよいかの教育と、「再チャレンジ」の仕組みが少ないのです。例えば、学校になじめない場合、学校に行きたくなくなった場合、あるいは事故や犯罪を犯した場合です。「そうなってはいけない」という教育とともに、そうなった場合の対応策を教える必要があるのです。
参考「失敗した場合を教える教育、スウェーデンの中学教科書

慶應大学、地方自治論Ⅱ第13回目

今日は、慶應大学法学部で地方自治論Ⅱの最後の授業でした。
秋学期の総集編をしました。これまでの授業で話したことを、毎回配ったレジュメと資料に沿って、おさらいをしました。結構な分量になっています。
全体を通してみると、各回の話の位置づけがよく分かります。あわせて、どこが重要な点か、そして期末試験に出すかも。

来週行う試験は、配ったレジュメや資料の持ち込みが可能です。今回は、準教科書も持ち込みを許すことにしました。
地方行財政の項目を丸暗記してもらうことは、考えていません。基本を理解して欲しいのです。それを問います。試験は記述式です。考えなければ書けない問いもあります。もっとも、授業に出ていたら、難しくありません。
ふだん120人の出席者が、今日は160人に増えました。学生さんたちにも、それぞれの事情があるのでしょうが。私の試験は、授業に出席せず単位を取れるような、簡単なものではありません。

学生に感想などを書いてもらいました。「地方行政や地方財政の基本がわかった」という反応の他に、「ものの見方や本の読み方、人生論が役に立ちました」という意見も多かったです。
これから日本を背負って立つ慶應大学法学部の学生たちに、どのようにしたら志を遂げることができるか。私の経験を、お話ししたかったのです。その点では、私の講義は成功でした。本に書いてあることは、本を読めばわかるのですから。

宗教の役割

1月17日の朝日新聞に「阪神大震災24年 被災者へ祈る支える」という記事が載っていました。大震災の際の、宗教者の役割や活動についてです。
私も、東日本大震災の際に、宗教の役割を再確認しました。

まずは、弔いです。宗教施設も葬祭場も被災し、各地で十分なお葬式をあげることができませんでした。火葬場も使えず、仮埋葬することもありました。遺族の方が、「せめて、お坊さんにお経をあげてもらいたい」とおっしゃったのです。遺族にとって、お葬式を出すことが、一つの心の区切りになります。
各宗教団体も「協力します」と申し出てくださったのですが、行政として十分な斡旋をできませんでした。政教分離の原則を気にしたからです。
もっとも、これは工夫によって(宗教団体やNPOに斡旋をしてもらう。役場の窓口は、そこを紹介する)解決できます。

つぎに、被災者の心のケアです。心のケアというと、精神科医を想像しますが、心の平静を受け持ってきたのは、人類の歴史において長年にわたり宗教の役割でした。
ここは、宗教団体に対し、もっと活躍してほしいです。

行政の役割、育成と規制

1月8日の読売新聞が「保育改善指導公表1割」を大きく伝えていました(古くなってすみません)。
記事によると、保育施設への検査権限を持つ121自治体(都道府県、政令市、中核市)のうち、改善を指導した施設名と指導内容を公表している自治体は11団体で、1割に満たないことが、読売新聞の調査で分かったそうです。

保育施設での子供の事故が相次いでいます。そこで、市役所が調査に入り改善指導をします。問題は、ここからです。その指導内容を市役所が公表していないのです。
理由は、人手不足で余裕がない、保育施設の運営を妨げる、保護者の不安をあおるなどです。
しかし、改善指導をしているなら、それだけの事実と理由があるはずです。
子供を預けている保護者からすると、そのような情報は開示してもらいたいです。保育施設は、指導に対しどのような改善を行ったかを答えるべきでしょう。

業界を相手にした行政では、これまではその育成が任務でした。ところが、利用者の立場に立つと、育成とともに規制もしてもらわなければなりません。一定基準を満たすように、規制することです。
教育において、提供者側の学校や教師、学校法人を相手にするのか、利用者である生徒や保護者を相手にするのかで、視点が変わってきます。

提供者育成は、相手や業界団体があると比較的簡単です。補助金を出す、法令や指導を行うことです。ふだんからのつながりもできます。
それに対し、利用者は多数ですから、相手にするには違った行政手法が必要となります。

インフラの範囲

1月16日の日経新聞1面に「サイバー対策、五輪前に 重要インフラに指針」が載っていました。
「政府は今春にも、電力や水道といった重要インフラ14分野のサイバー防衛対策に関する安全基準の指針を改定する。当初は2020年の東京五輪・パラリンピック後に見直す予定だったが、巧妙化するサイバー攻撃や相次ぐシステム障害への危機感から前倒しする。重要インフラが攻撃を受ければ国民生活への影響は甚大だ。事業者は一層の対策強化が不可欠になる。」という書き出しです。

ここで言う「重要インフラ」は、次のように解説されています。
「国民生活や経済活動の基盤となるインフラのうち、機能が停止したり、低下したりすれば特に大きな混乱を招くと見込まれるもの。政府は情報通信、金融、航空、空港、鉄道、電力、ガス、政府・行政サービス、医療、水道、物流、化学、クレジット、石油の14を重要インフラ分野と位置づける」

かつては、「インフラ」といえば、道路や鉄道など都市基盤を指しましたが、近年はこの記事にあるように、情報通信や金融などにも広がりました。
鉄やコンクリートでできたものだけでなく、通信やネットワークも、重要な生活基盤だと認識されるようになったのです。このようなインフラは、モノと言うより「仕組み」です。私は「制度資本」と呼んでいます。
さらにこのほかに、モノとではない「社会関係資本」「文化資本」といった生活基盤もあります。

内閣サイバーセキュリティセンター「重要インフラ専門調査会