復興の3要素、その2

復興の3要素、その1」の続きです。
その後、「1インフラ・住宅の再建」は順調に進みました。国土交通省、自治体などの管理の下で、建設業者が住宅再建や道路・堤防の復旧を進めてくれました。

3コミュニティの再建」は、仮設住宅での見守りから、住宅再建が進むと、恒久住宅での孤立防止に課題が変わりました。新しい町や集合住宅では、町内会がないのです。そこで、「コミュニティの形成」(町内会の形成)を、支援内容に加えました。図の左下の枠内。これは、既存の省庁で担当する役所はありませんでした。現在も、復興庁が担っています。

2産業・なりわいの再生」は、水産加工場では施設設備が復旧したのに、売り上げが回復しませんでした。商店の棚を別の産地に奪われていたのです。売り上げを伸ばすにはどうしたらよいか。より品質の良いものをつくり、売り込まなければなりません。それは、補助金でできるものではありません。大企業などのノウハウを借りることにしました。図の右側。これは、民間から来てくれた復興庁職員が考えてくれました。

このように、地域の暮らしやにぎわいを取り戻すには、「1インフラ・住宅の再建」だけではダメで、「2産業・なりわいの再生」や「3コミュニティの再建」が必要だったのです。住民、地域共同体、事業主に任せず、国や自治体が支援することに手を広げました。さらにいま述べたように、あとの2つは時間とともに課題が変化し、対応を追加しました。
この項続く

中国改革開放の40年、一貫性欠いた統治モデル

中国改革開放の40年」の続きです。2018年12月12日の日経新聞経済教室「中国・改革開放の40年」、加茂具樹・慶応義塾大学教授の「一貫性欠いた統治モデル」から。副題に、「国際秩序 関与の姿示せず」とあります。

・・・中国共産党が「改革開放」政策を選択してから、およそ40年が経過した。日本を含む国際社会はこの間、2つの異なる見方の間を揺れ動きながら中国に向き合ってきた。一つは期待であり、いま一つは懸念である。
国際社会は、世界の経済成長のけん引役を担う中国経済に一貫して期待を寄せてきた。経済成長を通じて国力が拡大した中国は、国際社会の力(パワー)の分布に影響を与える存在となり、次第にグローバル・ガバナンス(統治)の改革に積極的に加わり、けん引する意欲を示してきた。懸念は、その先にある。

すなわち、中国がどのようなグローバル・ガバナンスの姿を描いているのか、判然としないことである。国際社会は東シナ海や南シナ海などの空海域における、力による現状変更の試みとも見られる中国の行動を、潜在的な中国の秩序観が映し出されたものと考え、問題視している。
中国はこれから一体どこへ向かうのか。国際社会の中国を巡る問いは、この一点に集約されている。この問いを解く手掛かりは、過去40年間の中国の歩みの検討にある・・・

・・・習政権は過去40年間の成果として、そして発展途上国が社会の安定と経済発展を同時に実現するための手本として、「中国モデル(中国方案)」を内外に宣伝している。安定と成長を同時に実現するための保障が、集権的なトップダウン型の統治だという。そこには共産党の無びゅう性と中国がグローバル・ガバナンス改革をけん引する正当性の主張が織り込まれている。しかし、それは実態を正確に説明していない。そもそも共産党には一貫したモデルはなく、試行錯誤的であった。
そして、安定と成長を実現できたのは、集権的なトップダウン型の統治ではなく、共産党が支配を維持するために、必要に迫られるように導入した、公聴会や問責制といったボトムアップ型のメカニズムが機能したからである。
中国モデルは存在するのだろうか。明らかなことは、統治のかたちの模索は、これからも続くということである・・・

・・・中国は改革開放の40年を経て、世界で中心的な役割を果たすようになったと、高揚感をもって総括し、人類の問題解決のために中国モデルを提示するという。そしてポスト改革開放の道を歩み始めたと宣言するだろう。
だが、共産党はいまだ統治のかたちの模索を続けており、中国は依然、改革開放の40年史のなかにいる。このことは、中国がグローバル・ガバナンスの姿を、まだ描き切れていないことを意味する。国際社会が、グローバル・ガバナンスに関わる規範の改善に努めながら、中国を既存の国際秩序の中で誘導する余地は、まだ十分にある・・・
参考「社会はブラウン運動4 指導者の意図も行き当たりばったり
この項続く

復興の3要素、その1

被災者の私有財産への公費投入」の続きにもなります。著作や講演で使っている図を更新しました。
東日本大震災の復興に携わって、何が必要かを考えた際に整理した図です。

 

 

 

 

 

 

 

 

「1インフラ・住宅の再建」は、皆さんもおわかりでしょう。私は当初、これを復旧すれば、大震災からの復興は終わると思っていました。
しかし、現地に行くと、まず孤立防止が課題になりました。これは従来は、地域での助け合いに任せていました。しかし、それではうまくいかないことが、阪神・淡路大震災でわかりました。そこで、「3コミュニティの再建」のうち「見守り」が行政の仕事になったのです(この時点では、まだコミュニティの再建ではありませんでした)。
担当する省庁がないので、被災者支援本部、復興庁が担いました。実施は、自治体を通じて、NPOなどにお願いしました。

次に、津波被災地では商店が流されて、買い物ができませんでした。従来は商工業の復旧は、事業主に任せていました。政府がやったのは低利融資です。日本は自由主義・資本主義国ですから。しかし、現地は放っておくと、商業の再開は見込めませんでした。近くの町も、お店は流されています。住民は、ものを買うことができないのです。これでは、暮らしは戻りません。阪神・淡路大震災との違いです。そこで、仮設店舗の無料提供を始めました。これが、「2産業・なりわいの再生」です。
また、商工業を復旧してもらうために、グループ補助金をつくって、施設設備の復旧に公費を投入しました。これも、初めてのことです。それぞれ、経済産業省がつくってくれました。
さらに、この表には出ていませんが、二重ローン対策もつくりました。新しく工場や商店をつくるには、借金が必要です。その前に、流された土地や建物を担保に借りた借金が残っています。返し終わっていない借金の上に、もう一つ借金をしなければならないのです。
この項続く

内包と外延、ものの分析

少々わかりにくい表題です。
あるものごとを解説したり分析する際に、そのものごとの内部を深く分析します。これを内包的分析と呼びましょう。もう一つは、そのものごとが社会でどのような位置を占め、どのような影響を与えたかを分析します。これを外延的分析と呼びましょう。
この2つの区分には、もっと専門的な用語があるのかもしれません。ひとまずここでは、内包と外延という対語を使っておきます。

例えば、キリスト教を学ぶ際に、聖書を読むことは内包的分析です。それに対して、キリスト教が古代ローマ、中世ヨーロッパ、新世界、そして現在社会にどのような影響を与えたかを分析するのが、外延的分析です。
交付税制度を解説する際にも、その算式を説明するのは内包的分析です。交付税制度がなぜ必要なのか、どのような成果を上げているかを説明するのが、外延的分析です。

四角な座敷を丸く掃く」で、四角の仕事を深掘りするか、その周囲を広げて考えるかを書きました。今日の話は、この話にも通じます。

ところで、古典と言われる自然科学や社会科学の著作も、それだけを読んでいても、その著作がなぜ古典と言われるかは分かりません。後世に意味をもつ古典は、それまでにないことを書いた、あるいはそれまでの常識を打ち破り、社会を変えたのです。後世の者にとっては、その解説が必要です。
良い解説書は、対象とする物事が、どのような社会状況にあって、どのような影響を与えているかを教えてくれるものです。この項続く

ヨーロッパ統合、成功の次に来た危機

2018年12月20日の日経新聞オピニオン欄、刀祢館 久雄・上級論説委員の「欧州統合、問われる耐久力」から。

・・・悲劇をこれ以上繰り返さない不戦の枠組みとして第2次大戦後に立ち上がったのが、いまのEUへと発展する欧州の地域統合だ。
ドイツとフランスの和解と協力を軸に平和を不動のものにし、豊かで米国と競える経済力を築く。2つの目標は達成できた。20世紀の欧州統合は大成功だったといえる。
問題はそのあとだ。08年のリーマン・ショックが契機かのようにユーロ危機から難民問題、英国のEU離脱決定、ポピュリズムの大波と、欧州は激動に見舞われ続ける・・・
・・・東北大名誉教授の田中素香氏は「20世紀の欧州統合モデルでは21世紀の危機に対応できなくなっている」と指摘する・・・

そうですね。2度にわたる世界大戦。それを防ぎ、ドイツの暴走を抑えること。また、ヨーロッパの衰退を食い止めること。西欧は、その二つに成功しました。ECからEUになり、統一通貨ユーロも導入され、統合はさらに進むと考えられていました。
ところが、難民問題、格差問題、若者の失業、そしてポピュリズム・・。これまでの課題とは違う、新しい課題が出てきました。
これらの問題に、どのように対応するか。これまでは、代議制民主主義と自由主義・市場経済で問題を解決してきました。しかし今回の問題は、この2つの哲学と手法を揺さぶっています。これまでとは、違った次元の課題です。新しい次元の問題には、新しい考えと新しい手法が必要なのでしょうか。