マティス国防長官の辞任

アメリカのマティス国防長官が、辞任することになりました。
「トランプ米大統領は20日、マティス国防長官が2019年2月末に辞任するとツイッターで発表した。米軍のシリア撤退など政策を巡る見解の相違が理由だ・・・
・・・マティス氏もトランプ氏宛ての辞表の内容を公表した。そのなかで「強力な同盟関係の維持や、彼らへの敬意をなくして国益を守ることはできない」と表明」と、日経新聞は伝えています。

そのマティス国防長官の書簡で、肝になる文章は次です。
・・・Because you have the right to have a Secretary of Defense whose views are better aligned with yours on these and other subjects, I believe it is right for me to step down from my position.・・・
マティス国防長官からトランプ大統領あての書簡原文

「あなたは、これらの点について、あなたの考えにより近い人物を国防長官に据える権利があります。だから私は身を引く時だと考えています」
マティス国防長官からトランプ大統領あて書簡(日本語訳、日経新聞)

書簡のその前段には、次のような記述があります。
「同様に戦略的利益が我々の利益と衝突することが増えた国に対しては、我々のアプローチを断固かつ明確なものとしておく必要があります。中国やロシアが自国の利益を追求するために経済・外交・安全保障に関する他国の決断を否定し、権威主義的な政治モデルと整合的な世界をつくりだしたいと望んでいるのは明らかです。だからこそ、我々は共同防衛に向けて、あらゆる手段を尽くさなければならないのです。
同盟国に敬意を払い、悪意に満ちた者や戦略的な競争相手に注意を払うべきだという私の考えは、こうした問題に取り組んだ私の40年以上(の経験)に基づき、培われたものです。我々の安全保障や繁栄、価値観に最も資する国際秩序を推進するためにできることは全てやるべきです。我々は同盟という結束によって強くなるのです」

上司と見解が異なった際に、どのような行動をとるかの一つの見本です。
この文章には、「私は間違っていた」といったことは書かれていません。「あなたと考え方が違う」ということを、上品な言い方で表現しています。そこでは、「合衆国の歴史と私の考え方が正しい」=「大統領が間違っている」と表明しているのです。
この項続く

慶應大学、地方自治論Ⅱ第11回目

今日14日は、慶應大学で地方自治論Ⅱの第11回目の授業。公営企業と第三セクターについてお話ししました。
あわせて、複式簿記と単式簿記(大福帳)との違いを、簡単に説明しました。学生たちが社会に出て企業などで活躍する際に、複式簿記の基礎知識は必須です。
さらに、視野を広げて、政府(中央政府・自治体)、非営利団体、企業のサービスや財の提供も説明しました。

話に夢中になっていて、出席カードを配るのを忘れました。授業時間の終わりに気がついたのですが、もう時間かなかったので、今日は配布と回収をやめました。これで、年内の講義は終了です。

四角な座敷を丸く掃く4、竹秀才では困る

四角な座敷を丸く掃く3」の続きです。

さらに脱線します。今回、四角な仕事をきちんと掃く職員を「竹」と呼んだのは、長年の疑問に思っていたことに、一つの解決を出したからです。頭の良い職員なのに、なにかが足りない職員を、たくさん見てきました。なぜだろうと、悩んでいました。

学校秀才は、与えられた問に正しく答えることに慣れています。職場の仕事がそのようなものばかりなら、彼らは「松」です。しかし、彼ら秀才に欠けている点が2つあります。
1つは、新しい課題を「私の仕事ではありません」「できません」といって、拒否するのです。
そして困ったことに、自分の所管でないことの理由やできない理由を詳細に考え、とうとうと説明してくれます。その説明を聞いていると、「ええわ、もうあんたには頼まない」と思ってしまいます。それは、彼にとって成功でしょうが、その課題をなんとかしたい私にとっては、役に立たない秀才です。
いろいろと分析をして課題を並べるけれど、実行はしない職員も同じです。評論家としては良いのでしょうが、職場では役に立ちません。

もう1つは、新しい課題に対して、素早い適切な回答を出せないのです。
頭が良いので、精緻に正解を探します。学校で正しい答えを出すことを覚えてきているので、「問題には、必ず一つの正解がある」と考えているのです。自然科学と社会科学、さらには私たちの職場の違いを、理解していません。
職場の問題は、自然科学の問題とは違います。唯一客観的な正解があるようなものではありません。利害が対立している二者の間で、どのように一つの解答を出すか。足らない予算で、事業をどのように組み立てるか。明日の議会での答弁案を、今晩中にどのように書くか・・・。
じっくり時間をかけて、正解を検討するような場ではないのです。締めきりまでに、何らかの結論を出さなければなりません。その際に、完璧主義者では、締めきりに間に合いません。

方向性と詳細設計

先の国会では、入国管理法の改正(外国人労働者の受け入れ)が、大きな議論になりました。この課題には様々な論点がありますが、今日は、方向性と詳細設計という観点から、解説します。

17日の読売新聞によると、全国世論調査の結果、外国人労働者の受け入れを単純労働に拡大することに「賛成」の意見は46%、「反対」は39%です。その一方、外国人の受け入れを拡大する改正出入国管理・難民認定法が、臨時国会で成立したことを「評価する」人は37%で、「評価しない」48%の方が多かったのです。
同様に、18日の朝日新聞によると、全国世論調査の結果、外国人労働者の受け入れ拡大には46%が賛成し、反対40%を上回っています。ただし、改正法の成立を「評価する」は39%で、「評価しない」48%の方が多いのです。

どちらも、受け入れには賛成が多く、改正法成立は反対が多いのです。このねじれを、どのように理解するか。国会審議の評価については、ここでは触れないこととします。
大きな方向では国民は受け入れには賛成で、その詳細設計を十分にすることを望んでいるようです。すると、その点を議論すべきでしょう。あるいは、方向としては拡大することとして、運営過程で課題を順次解決することが考えられます。

保守と言われる自民党が受け入れ拡大賛成になのに対し、民主・革新をうたっている(と思われる)野党の多くが拡大反対のような行動を取ったことも、国民には不可解でした。さらに、「家族帯同は認めない」は、常識に反するように思えます。日本人の海外駐在者が、「家族を連れてくるな」といわれたら、困りますよね。

合理的な人間ばかりではない、経済学の限界

12月18日の日経新聞オピニオン欄「揺らぐ世界情勢 打開策は」。

前田裕之・編集委員が、次のような問題提起をします。
「市場経済は多くの人を豊かにするが、金融危機、経済格差、環境破壊といった副作用を伴う。恩恵より副作用の方が大きいと感じる人が増え、資本主義や市場への批判が強まっている。別のシステムが見当たらない中でどうすればよいのか」

それに対する、岩井克人・国際基督教大学特別招聘教授の発言から。
・・・――経済学は問題の解決策を提示できないのですか。
「人間は合理的に行動するという仮説を立て、その自己利益追求が社会にとって良い結果をもたらすようなインセンティブ(誘因)の設定を考えるのが、主流派経済学の基本。それを基礎にしてミクロ経済学では契約理論やゲーム理論が発達し、さらには、人間は無限の未来に関しても合理的に予想できると仮定し、その予想が現在の行動のインセンティブを左右する視点を入れたマクロ経済学を生み、ともに一定の成果を生んだ。経済学の手法は政治学、社会学、法学などに広がった。ところが、経済学の方法論を極限まで進めた結果、従来の方法論では解決できない問題が逆に浮き彫りになった」

――その限界とは。
「ミクロ経済学は、すべての人間関係を契約関係として理論化してきた。2人のインセンティブが両立する関係だからだ。だが、社会には契約が不可能な関係が無数にある。老人の世話をする後見人、患者を手術する医者、法人としての会社を経営する取締役など、仕事を信頼によって任せざるを得ない関係であり、後者に忠実義務を課さなければ機能しない。ここでは自己利益を前提とする契約理論は有害ですらある。環境問題も、現在と将来の世代が契約を結べないから解決が困難なのだ」・・・