中公新書『日本史の論点 邪馬台国から象徴天皇制まで』(2018年)が、面白いです。お勧めです(「面白い」という表現以外に、もっと適切な単語はあるのでしょうが。持っている語彙の少なさを、反省します)。
分担は、古代・倉本一宏、中世・今谷明、近世・大石学、近代・清水唯一朗、現代・宮城大蔵さんと、5人のベテランと若手研究者です。
それぞれの時代について、5~7の論点を設定して研究がどこまで進んだか、どのような議論がされているかを、解説しています。
私たちは、学校の教科書で「通説」を学びます。しかし、現代だけでなく、はるか昔のことでも、新しい発見や新しいテーマと解釈が出て、歴史像は変わっています。
新しい議論や解釈の本が出ると、読むのですが、どの論者が正しいのか、支持を受けているのか。そして議論の最先端はなにか。素人にはわかりません。この本は、良い観点を狙いましたね。歴史ファンに受けると思います。
ところで、この本で取り上げられた論点はそれぞれ興味深いものなのですが。さらに望むなら、次のような視点での、歴史学が進まないでしょうか。すなわち、庶民の暮らしの歴史、社会史をもっと取り上げることはできないのでしょうか(文化史とは何か)。事実の発見や解釈の変化とともに、歴史を見る見方自体が変化しています(歴史の見方の変化)。
天皇、貴族、武士といった支配者の歴史も良いのですが、多くの庶民はどのような暮らしをしていたのでしょうか。それは、どのように変化したのでしょうか。奈良時代から平安時代に代わって、農民の暮らしはどの程度変わったのでしょうか。
私の史観では、日本列島に住んでいた人の歴史は、縄文時代、長い弥生時代(稲作を中心とした生活)、産業化の時代(高度成長期以降)に分けられると考えています。
支配者が代わっても、庶民の生活にはそれほどの差はなく(誰に税金を納めるか、誰が守ってくれるかの変化くらい)、それよりは、どのようにして生産性が向上したか、病気や災害への対応は変化したか、家族関係はどのように変わったかの方が、大きな関心事項だったと思うのです。