7月3日の日経新聞経済教室は、北岡伸一先生の「明治維新150年の日本 発展・民主化の経験 世界に」でした。
・・・今から50年前、明治維新100年が祝われたころ、学界では明治維新を高く評価する人は多くなかった。フランス革命やロシア革命に比べ、明治維新は不徹底な革命だという人が多数派だった。
だが今やロシア革命を賛美する人はほとんどいないし、フランス革命についても評価は高くない。徹底した破壊は反動を呼び起こし、また徹底した弾圧をもたらすことが多い。明治維新は比較的小さな犠牲で、死者数も3万人以下とフランス革命やロシア革命より2~3桁少ない。さらに伝統の本質的な部分を破壊することなく、大きな変化を次々と断行し、全体として巨大な変革を実現したのである。
その本質は何だったのか。
明治が終わったころ、多くの人が明治時代について論じた。当時28歳だった石橋湛山は次のように述べている。多くの人は、明治時代を軍国主義的発展の時代だったとみるだろう。しかし自分はそうは考えない。これらの戦争は、時勢上やむを得ず行ったものである。その成果は一時的なものであり、時勢が変わればその意義を失ってしまう。
そして石橋は、明治時代の最大の事業は戦争の勝利や植民地の発展ではなく、「政治、法律、社会の万般の制度および思想に、デモクラチックの改革を行ったことにある」(「東洋時論」)と言う。
私は石橋の議論に強く共感する・・・
・・・偉大なのは日清・日露の勝利でなく、勝利できるような国力を蓄えたことだ。維新から日清戦争までは26年、日露戦争までは36年にすぎない・・・
・・・明治維新と比べれば、冷戦終結以後の日本の停滞の根源も明らかだ。規制改革の声は高いが、多くの既得権益はそのままであり、海外の事物の導入にも消極的で、一時しのぎで取り繕ってきたのがこの二十数年の歴史だった。
さて石橋は先の論文の中で、明治の意義は未曽有の東西文明の接触の時期にあたって開国と民主化を進めたところにあるとして、その意義を世界に広めるために明治賞金をつくろうと提唱していた。
確かに明治維新は、世界史的な意義を持つものである。
私はかつて国連大使として世界の紛争に関する議論に参加し、現在は国際協力機構(JICA)理事長として、途上国の発展に関わっている。そのたびに痛感させられるのは途上国の発展の難しさだ。国民統合を維持し、経済的、社会的、政治的に発展することがいかに難しいか。経済発展まではできても、そこから民主主義へと発展していくことがいかに難しいか。
従って多くの途上国にとって、非西洋から先進国となり自由、民主主義、法の支配といった近代的諸価値と伝統を両立させている日本という国は、すごい国なのである。
日本は戦前とは違い、軍事大国ではないし、経済大国としても一時の勢いはない。しかし先進国への道を歩み、伝統と近代を両立させてきたことでは、世界に並ぶ国がない。
この経験を、道中での失敗の数々とともに、世界と共有することが、日本が世界に貢献する最大のものだと思う・・・