若手職人、労働か研鑽か

日経新聞夕刊「こころの玉手箱」5月31日、河野雅明さんの「愛用の包丁」から。

・・・ところで料理といえばホテル業と当然ながら縁が深い。ロイヤルパークホテルズでも多くの調理人を抱えているが、その育成が大きな課題になっている。
彼らはひたすら上手(うま)くなりたい。色々な料理法に挑戦したいと思っている。仕事が終わってもすぐには帰らず腕を磨きたい。先輩も教える。その時間は「研鑽(けんさん)」であって「労働」ではない。しかし労働基準法ではグレーゾーンだ。
私たちは業務でもないのに簡単には残業代を払えない。若者の方でも、教えを請う立場でお金をもらってよいのかと考え悩む。
事務所の仕事も職人たちも同じルールを適用しなくてはならない。難しい問題だ・・・

私が日経新聞夕刊コラム3月1日に書いた「仕事人間の反省」も同じです。駆け出しの頃、職場に泊まり込んで仕事をしました。労働をしているという意識はなく、勉強させてもらっていると思っていました。でなければ、残業手当も十分に出ないのに、明け方まで仕事をしませんわね。
自発的にするか、強制的にさせられるかの違いでしょう。もっとも、上司が指示していなくても、「やらざるを得ない」状況に追い込んだら、それは強制です。

スポーツの目的は勝利か自分磨きか

6月1日の朝日新聞オピニオン欄「アメフト問題、映すもの」高橋正紀・岐阜経済大学サッカー部総監督の「競技以外の「日常」持て」から。

・・・ドイツ留学中にサッカーの試合で勝ったとき、相手に「ありがとう。君の守備はすごかった」と感謝されました。自分を磨ける強い相手と出会えたからです。しかし日本では、勝つことが一番です。相手を「敵」と表現してしまい、負けることを、恥と考えてきました。
「勝たないと楽しくない」と言う選手は精神が弱い傾向にあります。「失敗できない」と、積極性を失ってしまう。サッカー日本代表は、過去に出場したワールドカップで、先取点を奪われた7試合の結果は1分け6敗でした。挽回(ばんかい)できず崩れるのは、予想外の展開になった際に「自分が成長できる機会だ。挑戦しよう。楽しい」と考えられないからでしょう・・・

・・・私が指導するサッカー部は、目標が四つあります。優先度の高い順に、授業の単位を取る、サッカーを4年間やり切る、アルバイトをする、高め合える恋人をつくる。日常で大切にすることがあり、スポーツは非日常の遊びの空間と認識できたら、たとえ試合に出られなくても世界は終わらない、とわかります・・・