中国と世界、関与政策の限界

5月24日の日経新聞経済教室、阿南友亮・東北大学教授の「中国共産党政権と日本 西側の関与政策 限界露呈」から。詳しくは原文をお読みください。

・・・いまようやく中国との経済関係に付随するリスクについて日米欧の政府当局者の間で一定の共通認識が生まれつつある。日米欧が20年以上維持してきた中国に対する「関与(engagement)」政策の妥当性を巡る議論も浮上している。

関与政策とは端的にいえば、米国を中心とする既存の世界経済システムに中国を組み入れ、中国に利益と安心を供与することで、中国との調和を図ることを狙う政策だ。1990年代前半にクリントン政権が打ち出して以降、米国ならびに日欧の対中政策の基本指針となってきた。
関与政策は、中国の経済発展に伴う中間層の拡大で政治の民主化を要求する機運が高まり、経済のグローバル化とともに、中国の政治体制改革を促すという未来予測を根拠としてきた。また同政策の支持者は、中国の政治体制の変化に伴い中国と日米欧の間に残る相互不信や緊張が緩和され、アジア・太平洋地域の安全保障環境が安定化に向かうという期待を持っていた。
そうした予測や見通しに基づき、日米欧は中国に対する経済支援と投資を積極的に進めてきた・・・

・・・だが現在、日米欧の眼前には当初の期待とは著しく異なる光景が広がっている。中国では様々な構造改革の試みもむなしく「権力と資本の癒着」に歯止めがかかっていない。すなわち中国共産党の高級幹部および党とコネでつながる集団が経済・産業の主要部分を独占的に支配し、富を特権的に囲い込んでいる・・・
・・・共産党は本来であれば、構造改革による格差是正に力を入れるべきだったが、そうした改革は特権集団の既得権益に抵触した。このため90年代以降、党内で優位に立った既得権益派は、一連の改革を骨抜きにしつつ排外的なナショナリズムを率先してあおり、それを通じて国内の不満を国外、特に日米に転嫁する政策に力を入れるようになった。
またそれと並行して、共産党直属の軍隊である人民解放軍に大々的に資金を投入するようになった・・・

・・・中国の大規模な軍拡は、中国国内の不満分子が日米欧と連携して共産党を窮地に陥らせるのではないかという根深い危機感と疑念に裏付けられている。それは危機感の起源となった89年の天安門事件以降約30年間維持されてきた。
共産党のプロパガンダにより90年代以降、国内に広く浸透した排外的色合いの濃い世界観は、中国でのネット世論の基調を成し、次第に中国外交を束縛するようになった。それにより中国政府が領土・海洋権益・安全保障などを巡り周辺諸国に譲歩することが困難になると、共産党は増強された解放軍を用いた威嚇や経済制裁を多用するようになった。これがアジア・太平洋地域の緊張増大を招いた。
結果的にいえば、米国主導の対中関与政策に基づく日米欧の巨額の対中支援・投資は中国の経済発展を後押ししたが、それにより中国との関係が安定化する展開にはならなかった。日米に関しては中国との経済的相互依存関係の発展と同時に、中国との軍事的緊張も増大の一途をたどるというジレンマが顕在化した・・・
・・・3月1日付英誌エコノミストは「中国が早晩民主化・市場経済化するという西側の25年来の賭けは外れた」と評価。現在の関与政策の立ち位置を的確に反映した指摘だろう・・・