高円寺のカエル

このホームページの愛読者の方はご存じのことです。ご近所に住んでいるカエル、今年も出て来ました。
夕べ、雨が降ったらしく、道路が濡れていました。出勤途上、近くのお家の前で、車にひかれたらしく、横たわっていました。握り拳くらいの大きなカエルです。かわいそうに。
暖かくなって土から出て来て、雨が降ってうれしくなって庭から道路に出たのでしょうね。

情報保護政策のあり方、各国の文化の違い

3月28日の日経新聞経済教室、山本龍彦・慶応義塾大学教授の「EUの厳格な情報保護 米中と憲法文化の違い背景」が興味深かったです。
情報化の急速な進展によって、個人情報保護のあり方が議論されています。その内容は記事を読んでいただくとして、私が興味を持ったのは、EU、アメリカ、中国が異なった方針をとっていて、それがそれぞれの憲法文化を反映しているという指摘です。

・・・こうしたEUの先進的な取り組みには批判もある。自己情報の主体的コントロールを重視するEUのプライバシーアプローチは、AI社会化を背景に重要性を増すデータの自由な流通や利活用を妨げる可能性があるからだ。確かにEUのように情報に対する個人の「自己決定」の機会を実質化することは、データ流通に摩擦を生じさせかねない。
この点、米国や中国はプライバシーとデータ利活用のバランスについてEUとは異なるアプローチをとっており、世界の情報経済圏は三つどもえの様相を呈しつつある。注目すべきはこうしたプライバシーアプローチがそれぞれの地域の憲法文化と密接に関連していることだ。
ジェームズ・ホイットマン米エール大教授(比較法学)は、EUは「尊厳(dignity)」ベースで、米国は「自由(liberty)」ベースでプライバシーを思考すると指摘する。
もともと貴族の誇りやプライドに由来する「尊厳」は、個人が誇り高く自らの情報を主体的にコントロールできなければならないとの発想に結び付く。「尊厳=個人の主体性=情報自己決定権」という連関は、前述のGDPRの権利概念の中にも垣間見える。
これに対して貴族的伝統を持たず、政府に対する住居の不可侵性を源流に持つ「自由」は、私生活に対する政府の干渉には警戒的になる。一方、民間企業間ないし市場での情報・データ流通には、表現の自由という観点からも肯定的な発想に結び付くとされる。
また中国では、近年財産的な性格も持ち始めた情報を公(政府)が管理・統制し、財産の社会的共有を目指す共産主義的な情報保護政策を進めようとしているかのようにみえる。中国の「デジタル・レーニン主義」は、中国の憲法体制と深く結び付いたこうした情報政策を意味する言葉として理解すべきだろう。
以上のように考えると、EU、米国、中国のプライバシーアプローチの違いは、それぞれの憲法文化ないし憲法体制に関連している。情報経済圏の対立は「立憲」の型を巡るかなり深いレベルでの思想的対立(「尊厳」対「自由」対「共産」)のようにも思える。実際に筆者は海外のシンポジウムなどで、何度かこうした根本的対立の場面に出くわすことがあった・・・

図では、次のように整理されています。
EU=「尊厳」基底的アプローチ、情報自己決定権
アメリカ=「自由」基底的アプローチ、情報・データの自由な流通
中国=共産主義的アプローチ、デジタル・レーニン主義

中国は、「共産主義的」というより「政府管理的」「共産党管理型」と言う方がわかりやすいと思いますが。

日経新聞夕刊コラム第14回

日経新聞夕刊コラム第14回「新人諸君へ」が載りました。
4月、新年度が始まったので、この話題にしました。会社員も学生も、新入生は期待に胸を膨らませていると思います。他方で、ちょっぴりの不安も。私もそうでした。

私は若いときに、2度、出社恐怖症になりました。先輩が相談に乗ってくれて、脱出することができました。
いろんな経験をして、「皆、同じようなことで悩んでいる」「悩みの種は本人にとっては大問題だけど、経験者から見ると大した問題ではない」「相談に乗ってもらうと、乗り越えることができる」とわかりました。それを、『明るい公務員講座』に書きました。

本屋には、たくさんのビジネス書が並んでいます。しかし、意外と若手職員向けのものはありません。初歩的な悩みについては、あまりに基礎すぎて、書かれていないのです。先輩たちは、みんな経験で身につけたことなのです。それを、本にしました。
拙著について「平凡なことしか書いていない」という批評がありますが、その通りです。経験者にとっては当たり前のことを書いたのです。しかし、若手はそのようなことで悩んでいるのです。

何人かの人から、「この本を読んで、救われました」とお便りをいただきました。お役に立てて、うれしいです。
この本は公務員向けに書きましたが、民間企業でも同じです。若手社員だけでなく、彼らを指導する立場の人にも読んでもらっているようです。
どうか、悩んでいる後輩たちの相談に乗ってやってください。「何だ、そんなことに悩んでいるのか」というようなことで、彼ら彼女らは悩んでいるのです。

先月、『明るい公務員講座』の続編『明るい公務員講座 仕事の達人編』を出版しました。こちらも、ご利用ください。

社員の心の病

3月21日の日経新聞が「心の病、若手社員に急増 17年民間調査「責任重く、権限はなく」」を伝えていました。
日本生産性本部の「『メンタルヘルスの取り組み』に関する企業アンケート調査結果」です。

・・・うつ病など心の病にかかる社員が最も多い年代は10~20代だと答えた企業の割合が、3年間で急増し、27.9%に達したことが、20日までに日本生産性本部の調査で分かった。40代が多いと答えた企業は35.8%で、30代も32.6%を占めるが、それに迫る勢いで若者の割合が上昇している。同本部は「若者でも責任の重い仕事を任される一方、見合ったポストや権限は与えられず、不調に陥る人が増えている」と分析している・・・

かつては(戦前から高度成長期まで)、心の病は若者がなるものでした。小説も、若者が恋愛、結婚、人生いかに生きるべきかなどを悩むことが一つの主題でした。自殺の多い年齢や理由もそうでした。
ところが、近年特に1990年代以降、中年の自殺が増え、その理由が生活疲れや会社での悩みが多くなりました。心の病も、この自殺の傾向を先取りしていると思われます。
自殺は近年減る傾向にあるのですが、職場でうつ病になる職員は減らずに増えているようです。

拙著『明るい公務員講座』は、私の経験も含めて、仕事に悩む職員を減らそうと思って書いたものです。これを読んで、病気になる人が減ってくれればよいのですが。

鎌田浩毅著『理科系の読書術』

鎌田浩毅先生の新著『理科系の読書術』(2018年、中公新書)が良かったです。紹介には、次のように書かれています。

・・・本を読むのが苦行です――著者の勤務する京都大学でも、難関の入試を突破したにもかかわらず、そう告白する学生が少なくない。本書は、高校までの授業になかった「本の読み方」を講義する。「最後まで読まなくていい」「難しいのは著者が悪い」「アウトプットを優先し不要な本は読まない」など、読書が苦手な人でも仕事や勉強を効率よく進めるヒントが満載。文系の人にもおすすめの、理科系の合理的な読書術を伝授する・・・

わかりやすいです。すらすら読めて、納得します。学生だけでなく、社会人にも、役に立ちます。いくつかのキーワードを書いておきます。詳しくは、本を読んでください。
多読と速読の違い。速読とは、時間あたりに読める文字数が多いのではない。未知の分野では速読はできない。
人間関係2:7:1の法則は、本にも当てはまる。
難しい本を読む際の、棚上げ法と要素分解法。音楽的読書(丁寧に最初から読む本)と絵画的読書(飛ばし読みができる本)。
生産の読書と消費の読書の違い。

最近の学生は、本を読まないようです。昨日、このホームページでも紹介しました。京都大学の学生もそうだとか。もっとも、昔から、本を読む学生と読まない学生はいました。読まない学生の割合が増えたということでしょうか。
「本の読み方を教えてもらっていない」という指摘があります。私も大学の法学の授業で、教授から読み方のコツを教えてもらいました。法律学の本は、難しいのです。「そうか、教授もこのように読んでおられるのだ」と自信がつきました。
そこで、私が講義する大学の授業でも、本の読み方と新聞の読み方を教えるようにしています。新学期からは、鎌田先生のこの本を紹介することにします。