両陛下の障害者施設訪問

4月7日の日経新聞「平成の天皇と皇后-30年の歩み 障害者と心を共に」から。詳しくは、記事をお読みください。

・・・「トランポリンで跳びはねていた子どもたちが突然、天皇陛下に抱きついて握手した。続いて皇后さまにも抱きついたんです」
東京都国立市の知的障害児の福祉施設「滝乃川学園」の常務理事、米川覚さん(61)は、1992(平成4)年6月4日に両陛下が訪問した際の“ハプニング”を語る。同学園は日本最初の知的障害児のための施設で、のちに成人も受け入れている。前年が創立100周年だった・・・
・・・しかし、意外なことに当時この訪問を報じたメディアは少なかった。両陛下の障害者施設訪問の意義について、世間一般の理解が追いついていなかったといえる・・・

・・・両陛下の地道な活動により、肢体不自由児療護施設「ねむの木学園」(静岡県)、障害者就労支援施設「太陽の家」(大分県)や知的障害児の支援学校「旭出学園」(東京都)など、障害者施設に対する社会の認知度、理解は徐々に深まっていった。
2007年12月13日、皇后さまは非公式な「お忍び」で再び滝乃川学園を訪問した。見学中、障害者の一人が感激して皇后さまの手の甲にキスをしようとした。周囲のスタッフが止めようとしたが、「いいのよ、大丈夫よ」と笑顔で受けとめられたという。
そして、学園関係者に「皆さん(施設を利用する障害者)のことをよろしくお願いします」と言い残していった。常務理事の米川さんは「まるでわが子を託すように言われるので、本当に驚いた」と話す。
皇后さまは01年の誕生日の文書回答で、昭和30年代後半に日本で重症心身障害児施設が設立され始めたことに触れ、「3人の子どもの母として過ごした時期が、これらの施設の揺籃(ようらん)期と重なっており、無関心であることは出来ませんでした」とつづられている。
天皇陛下は99年11月の即位10年の記者会見で、障害者などに心を寄せていくことは「私どもの大切な務め」であり、施設の訪問でこれらの人々と「少しでも心を共にしようと努めてきました」と述べられた。
社会のなかで孤立し、忘れられがちな人々の存在を常に視野に置く。人格を尊重し、心を共にする。その精神の「伝道」は、平成の天皇、皇后のあり方の柱だった・・・