1月9日の日経新聞「私見卓見」に、佐藤隆文・日本取引所自主規制法人理事長・元金融庁長官が「東芝問題と建設的曖昧さ」を書いておられます。
・・・東芝の審査にあたった自主規制法人にとって最も重要な座標軸は、資本市場の秩序維持と投資家の保護だった。審査では内部管理体制が上場企業として求められる水準に達しているか否かを吟味する。審査ガイドラインで主な着眼点は公表しているが、多くは定性評価であり、単純に白か黒かと結論づけられるような項目はない。企業の実態を総合的に評価する必要があり、単純化できないためだ。
特注銘柄に指定された企業は上場維持・廃止の両方の可能性があり、不確実性の世界に置かれるのは避けられない。この曖昧さは、決して意図的に創出するものではないが、結果的にポジティブな効果も併せ持っている。これが「建設的曖昧さ」と呼ばれるもので、金融庁在職中に担当した銀行監督の世界では標準的な考え方だ。
この概念を特注制度に当てはめてみよう。もし上場維持の予想が市場で支配的になると、対象企業の改善努力は緩み、投資家による監視や規律づけも甘くなる。仮に上場廃止の予想が支配的になると、株価急落やビジネスの縮小、銀行融資の引き揚げなどが起きて、必然性のない経営破綻を招いてしまうかもしれない。むしろ不確実性が企業の努力を促し、投資家にモニタリングを動機づける。予見可能性と不確実性の「平和共存」こそが、株式市場の品質向上につながるのではないか・・・
原文をお読みください。
佐藤さんは、1月6日のリーダーの本棚に「バッハにみる悠久の秩序」も、書いておられます。