朝日新聞オピニオン欄9月20日の「ドイツ安定の理由」、ラルフ・ボルマンさん(ドイツのジャーナリスト)の発言から。
・・・20世紀前半に大きなカオスを経験したドイツ人にとって、「安定」こそが何よりも重要な価値観です。歴代の首相をみても、戦後初代のアデナウアーが14年、東西ドイツの統一を成し遂げたコールが16年。メルケル首相もすでに就任以来12年になります。
中でもメルケルは「安定」を擬人化したような人物です。金融危機のような混乱にあってもいつも冷静で、国民を安心させる。欧米諸国や旧西独出身の政治家たちは「世界の経済システムが崩壊する」とパニックになりましたが、メルケルは「世界の終わりではない」と言わんばかり。あわてて財政拡大に解決策を見いださず、長期的に何が良いのか、答えが出るまでじっくりと待ちました・・・
・・・彼女は、理想主義者なのか現実主義者なのか、という問いを受けますが、彼女にとってそれは同じことなのです。答えは彼女が愛読する英国の哲学者カール・ポパーの考え方にあります。自由と民主主義をとても大切に考えていますが、その社会では、すべての価値観は相対化されうる。すべての理念は、トライ&エラーのシステムによって検証され続けなければならないという考え方です。脱原発や同性婚の合法化をめぐる態度の変化も、彼女なりの検証の結果なのでしょう。
確かに彼女には、コールに見られたような壮大な「ビジョン」はありませんが、今の時代にビジョンは必要なのでしょうか? むしろ、危機をマネジメントすることによって存在感を増していったという意味で、1970年代の首相シュミットに似ているのかもしれません。
近年、世界をポピュリズムが席巻し、民主主義の危機が叫ばれています。世界が破滅的な状況になるのを防ぐ危機管理能力こそが求められている気がします・・・