幕末の天皇

藤田覚著『幕末の天皇』(2013年、講談社学術文庫)が勉強になりました。近代の天皇制を理解するには必須の本だと、書評で書かれていたので、手に取りました。
江戸時代、それ以前から、天皇・朝廷は権威は持ちつつ、権力は持ちませんでした。そもそも「天皇」という呼び名も、長く途絶えていたのです。権威も、徳川幕府に押さえ込まれた形での権威です。これは、多くの人が知っていることです。
では、どうして突然、幕末に天皇の権威がさらに上昇し、権力を持つにいたったか。そこに、光格天皇と孝明天皇の存在が大きいのです。著者は、冒頭に次のように書いています。
・・・なかでも孝明天皇は、欧米諸国の外圧に直面し国家の岐路に立ったとき、頑固なまでに通商条約に反対し、鎖国攘夷を主張しつづけた。それにより、尊皇攘夷、民族意識の膨大なエネルギーを吸収し、政治的カリスマとなった。もし、江戸幕府が求めたとおりに通商条約の締結を勅許していたならば、その後の日本はかなり異なった道を歩んだのではなかろうか。
たとえば、反幕運動、攘夷運動の高揚による幕府の崩壊とともに、幕府と一体化した天皇・朝廷もともに倒れ、その千数百年の歴史にピリオドを打つという事態も想定される。また、外圧に屈服した幕府・朝廷に対する反幕府反朝廷運動と、攘夷運動の膨大なエネルギーの結集核が不在のため、長期に内戦状態が続き、植民地化の可能性はより高かったのではないか・・・

知らないことが多く、何か所も「そうだったんだ」と驚かされます。また、「歴史のイフ」という視点から、事実を追いかけるだけの歴史学ではない、興味深い分析が書かれています。これだけの内容が、文庫本で読むことができるのです。お勧めです。