今日は、慶応大学法学部、公共政策論第9回の授業でした。いよいよ、これまで話してきた各論を踏まえて、私が考える公共政策のあり方をお話ししました。
まず、公共政策が取り組むべき社会の課題は、「社会のリスク」という観点から見ると、科学技術の発展と個人のつながりの希薄化から、新しい課題が増えています。
また、近代国家が想定した「自立した市民」というイメージは、大企業や不正を働くものの前では力不足です。労働行政と消費者行政は、ここから始まりました。病気をしたり失業したり自立できない個人もいます。そのために、各種の公的保険ができました。19世紀と20世紀の行政の歴史は、このように「弱い市民」を発見し、それを助けることの歴史です。
他方で、それらの問題に対して、サービスを提供したり答えるのは、行政だけではなく、企業もNPOなどボランティアセクターもあります。公私二元論ではなく、官共私三元論です。
行政が直営していたサービスを、民間に委託したり民間に開放したりすると、政府は小さくなります。しかし、国民からすると同じサービスなら、問題ありません。国鉄の民営化を考えてください。すると、社会の課題解決という観点からは、「大きな政府・小さな政府」論は、的が外れています。
では、政府は小さくなれば良いのか。そうではありません。民間が提供するサービスが適切なものか、ルールを作り、監視をしなければなりません。また、民間に任せていては不足する部分を提供したり、民間が提供するように誘導したりする必要があります。すると規模の大小ではなく、引き受ける責任が「広い政府」になります。
そして、全体を見ると「福祉提供国家」は「安心保障国家」になるのです。