中北浩爾著「自民党」

中北浩爾著『自民党』(2017年、中公新書)を紹介します。選挙制度改革以降の自民党を、多角的にとらえた好著です。新書というコンパクトな中に、必要なポイントを網羅した、かつそれぞれの分析が適確な本です。自民党を語る際の標準的教科書になると思います。
章立て(分析の視角)が良いですね。派閥、総裁選挙とポスト配分(総裁権力の増大)、政策決定プロセス(事前審査制と官邸主導)、国政選挙、友好団体(減少する票と金)地方組織と個人後援会。
制度と運用の実態の双方から、そしてその関係について適確に分析しています。これだけの内容(特に運用の実態となぜそれが成り立っているか)を書くには、かなりの人に取材をされた結果だと思います。国会議員、党職員、新聞記者・・・。またそれを咀嚼し、全体の中で位置づける能力が必要です。

新書という大きさからの制約ですが、これだけの内容の本なら、もう少し大きな版でも良かったと思います。
その際には、今の国政(自民党一強)を成り立たせている要因=野党である民主党との関係、あるいは民主党との政権担当能力との比較を書いて欲しいです。
また、事前審査制なども良く書かれているのですが、官僚との関係や、国会対策委員なども深掘りして欲しいです。
今後の課題ですが、総裁と国会議員との関係、官邸と党との関係、官邸と霞が関との関係は、制度より運営(リーダーである総理総裁の意思とフォロワーである国会議員の意識)による面が多いので(第1次安倍政権と第2次安倍政権とでは選挙制度や内閣制度は変わっていません)、それらの分析も必要となってくるでしょう。
いずれにしても、自民党、そして現在の日本の政治を語る際に必須の教科書です。「砂原庸介先生の書評」も、お読みください。

岩手県、復興意識調査

岩手県が、毎年「復興に関する意識調査」をしています。平成29年1月~2月に実施した結果が発表されました。
被害が大きかった沿岸部では、住んでいる市町村の復興が「進んでいると感じる」「やや進んでいると感じる」の合計は43%で、「遅れている」「やや遅れている」は合計33%です。「進んでいると感じる」が増加し、初めて「進んでいる」が「遅れている」を上回りました。
県全域でも「進んでいる」が増え、「遅れている」が減っています。岩手県では、被害が少なかった町村から復興事業が完了しています。事業が進んでいることが裏付けられています。

震災復興政策への評価

5月2日の朝日新聞朝刊、世論調査結果から。「安倍内閣の政策の中で、評価する政策にいくつでもマルをつけてください」という問いに対しての回答です。
1番は外交38%。次が景気・雇用で34%。3番目が安全保障24%で、震災復興が22%で4番目です。
その後に、次のように続きます。社会保障・福祉18%、消費税16%、教育・子育て15%、TPP(環太平洋経済連携協定)11%、財政再建9%、憲法9%、原子力発電・エネルギー5%です。

高岡さんの新著『外交官が読み解くトランプ以後』

畏友、高岡望さんが、新書『外交官が読み解くトランプ以後』(2017年、祥伝社新書)を出版されました。『アメリカの大問題―百年に一度の転換点に立つ大国』 (2016年、PHP新書)を出版されてから、まだ1年も経っていません。その精力的な活動に脱帽です。
前著も、トランプ大統領を予測した、分析と洞察力に優れた本でした。新著も、アメリカ勤務経験や広い視野から、長期的かつ地球規模の視点で書かれています。これだけの本を書くためには、常に新しい情報それも海外の情報を集めることと、それを冷静に分析し、見通す洞察力が必要です。外交官としての経験と優れた能力の賜、そして努力の成果でしょう。お勧めします。

京都迎賓館

京都を通るついでに、京都迎賓館を見てきました。ちょうど一般公開の日だったので。この施設は、できて10年あまりです。立派な施設です。それは、皆さんにも実体験していただくとして。
施設の見学だけでは、良さは十分にはわかりません。それは、どの建物についても同じです。この施設の場合は、見学の最後に見ることができるビデオと、売店で売っている解説書で、さらにその良さ、そして建設に携わった人たちの思いがわかります。

和風建築の良さが、全体と随所に見ることができます。責任者の一人であった中村昌生さんが、解説書に書かれている文章を引用します。
・・・京都迎賓館は、日本人のもてなし方で国公賓を接遇するために、国家によってはじめて建設された施設である。脱文明開化を内外に宣言する象徴的な施設であると言っても過言ではあるまい・・・
この一文が、この施設の特徴を表しています。東京赤坂の迎賓館は、開国した日本が列強に追いつこうとして、ヨーロッパの宮殿をまねて作ったものです。建物や調度品はヨーロッパ風です。装飾や絵画に日本風を加えてありますが。そもそもは皇太子であった大正天皇の住まいとしてつくられたものですが、「日本もこんな建物を作ることができるんです」と背伸びしている様子が見えます。

京都迎賓館は、中村先生の言葉にあるように、「脱文明開化を内外に宣言する象徴的な施設」です。日本が明治維新以来「国是」としてきた「西欧に追いつけ追い越せ」を終え、それを克服した象徴だと思います。
「追いつけ追い越せ」の思想では、所詮は評価基準は西欧です。日本らしさを加えても、基本は西欧です。もちろん、西欧を無視して日本標準をつくることは、難しいでしょう。
18世紀まで世界一だった中華文明が、世界トップクラスの経済大国になりましたが、「新中華文明」をまだつくり出してはいません。かつての中華文明の象徴である紫禁城(故宮)の前に並んでいるのは、西欧のどこにでもある鉄筋コンクリートの高層建築です。

では、建築物を和風(新和風)にして、日本らしさが出るか。そこには、あと二つの要素が必要です。一つは、調度品などのしつらえです。もう一つは、おもてなしです。
前者は、京都迎賓館をご覧ください。解説書には、どのように日本の伝統を生かしたかが解説されています。私たちが知らない匠の技があります。
後者のおもてなしは、施設見学ではわかりません。主たる要素は食事でしょう。フランス料理でないもの、外国の方にも食べてもらえる和食です。これも、かつてと違い世界でも食べられ評価されるようになりました。そして、お酒です。
この項、続く。