5月4日の日経新聞経済教室欄、新川敏光・京都大学教授の「シルバー民主主義を考える
不人気政策のリスク分散」から。
・・・政治家の「予想される反応」に基づく行動パターンはその政策がどれだけ人気があるかに左右される。有権者の間で人気の高い政策の場合、政治家は手柄を争う。社会保障・福祉の拡充は間違いなく人気政策なので、選挙時にはどの政党も争ってその拡充を訴える。人気取りのためには、負担には触れないほうがいい。
こうしてわが国では、1980年代に行財政改革が始まるまで、財政的維持可能性を考慮せずに給付拡充が繰り返された。73年に「福祉元年」が唱えられた当時を振り返れば、「老人問題」が注目されるようになり、高齢者への公的支援の拡充は全国民的支持を得ていたといえる。
再選を目指すうえで人気取り以上に重要なのが、不人気政策にコミット(関与)しないことだ。人は、受けた恩は3日で忘れても、足を踏まれた痛みは一生忘れないといわれる。政治家はまず有権者の足を踏まないように気をつけねばならない。社会保障給付の引き下げや資格要件の厳格化は代表的な不人気政策であり、非難を受けやすいため、政治家は関与を嫌う。
しかしどうしてもそうした政策に関わらねばならないとしたら、政治家は様々な戦略を用いて非難を回避しようとするだろう。まず不人気政策を再定義することが考えられる。例えば人気のある政策で支持を取り付けておいて、その政策により不人気政策を正当化する。80年代に行財政改革の旗の下で、老人医療費無料化の廃止、健康保険被保険者本人の自己負担導入、基礎年金導入、拠出給付関係の見直しなどが実現した。
次に官僚や審議会などを前面に押し出して、政治家の存在を目立たないようにすること、すなわち政治家の可視性を低下させることが考えられる。政治家が批判の矢面に立たないようにするのである。
段階的な政策遂行は、政策効果の可視性を低下させる効果を持つ。最終的な効果が非常に不人気なものでも、それが明らかになったときには、もはや非難すべき相手が誰だか分からなくなっているか、既に政治の舞台から退場しているといったことになる。
さらにスケープゴート(いけにえ)戦略がある。手柄争いの結果、制度に欠陥が生じても責任を受益者に押し付けて非難する。高齢者バッシングや専業主婦バッシングにはそうした傾向がみられる・・・
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