御厨貴先生の『戦前史のダイナミズム』(2016年、左右社)は、放送大学教材を再録したものです。
冒頭の、近代日本史の論争についての説明と評価が、勉強になります。
・・・というのも、高度成長の果実が実り出した1960年代以来、学者の領域と小説家・ノンフィクション作家の領域とに、暗黙のうちに二分されていた歴史の世界の境界が、これら新規参入者たちの活動によって、曖昧になり、その再編の可能性が生じているからです。
一般読者に読まれることのない学者の著作と、学者が読まぬふりをする作家の物語というすみわけ。こんな不毛な事態が続いたのは、やはり学者の側の責任が大きい。知る人ぞ知る存在たるべしという権威主義と、学会内の世界がこの世のすべてと思い込む夜郎自大性とが相まって、一方で空虚な理論研究に、他方でマニアックな実証研究に自らを封じ込めていったからです・・・(p4~)
・・・学者の著作が読んで面白くないと評された60年代以来、学者はかえって専門の世界に閉じこもってしまった。そこでは近代史全体を見渡すことなく、小さな歴史事象一つひとつの「証明」に追われています。
時に空虚なイデオロギーと小さな事柄の「解釈」をドッキングさせての検証、まずはご苦労さま。時に歴史観まったくなきままの、事実の「証明」を終えて業績がまた一つ。しかも「証明」と「解釈」をきちんと読むためには、ルーペが必要とされるではないか・・・(p8~)
(2016年11月5日)
月別アーカイブ: 2016年11月
明るい公務員講座・中級編、執筆。2
夕べ3日の夜に、編集長に原稿を電子メールで送りました。昨日書いたように、400字詰め原稿用紙で、45枚にもなる力作です。
すると、今日4日の昼には、ゲラになって返ってきました。きれいな印刷の形でです。私と右筆とが一月近く呻吟した原稿が、半日でゲラになって戻ってくるとは・・。トホホ・・。
昔は、原稿は200字詰めの原稿用紙にペンで書き、郵送しました。その原稿に編集長の朱がびっしり入り、それから活字を組んでもらいました。若い人には想像できないでしょうが、細かい鉛の活字(それは左右が反転している文字です)を並べていくのです。植字工さんの苦労を思うと、原稿用紙のマス目に、一文字一文字を慎重に書いたものです。
今は、執筆もワープロで、届けるのもインターネットです。印刷用の版を組むのもコンピュータで、修正も簡単にできます。かつてに比べ、はるかに効率化され、他方で一文字の重みが軽くなりました。
と、ぼやいている間に、次の締めきりが追いかけてきます。昨日出した分で、記事では3回分です。一月しか、もちません。
明るい公務員講座・中級編、執筆
「明るい公務員講座・中級編」の続き、第3章第2節2「企画と立案」を書き上げました。右筆がかなり加筆をしてくれたので、それを取り入れました。また、その過程で、次々と「これも書いておこう」「若い人たちには参考になるかな」という項目が浮かんできて。
定例事務を処理することや、部下の仕事を管理することだけでなく、事務の改善や新しい課題に取り組むことで、課長の力量が問われます。新しいことに取り組むことは面倒なことも多いですが、課長職の醍醐味でもあります。
400字詰め原稿用紙で、45枚にもなる力作です。これで、記事になる際には、3回分にはなるかな。
反グローバル化、経済による説明、2
白石隆・政策研究大学院大学長の「反グローバル、経済低迷で欧米内向き」の続きです。他方でアジアの数字は、次のようになっています。
1995年の1人あたりGDPを100とすると、2005年は、
中国223、ベトナム174、韓国154、シンガポール138、マレーシア、フィリピン、タイ120台、アジア経済危機で大打撃を受けたインドネシアでも115です。
2005年を100として2015年までの伸びを見ると、
中国236、ベトナム163、インドネシア152、フィリピン141、韓国、マレーシア、シンガポール、タイ130台です。
・・・つまり、東アジアの国々では1995~2005年の10年間より、2005年~2015年の10年間の方が1人あたりGDPが伸びた。アジアで反グローバル化の動きがほとんど見られないのもうなづける・・・
詳しくは原文をお読みください。(2016年11月3日)
反グローバル化、経済による説明
10月30日読売新聞「地球を読む」は、白石隆・政策研究大学院大学長の「反グローバル、経済低迷で欧米内向き」でした。
欧米で反グローバル化の動きが強いのに対し、アジアではほとんど見られないことに関して。
・・・これを考える上で参考になるのは、各国の経済成長の動向だ。1995年の各国通貨建て実質の1人あたり国内総生産(GDP)を100として試算すると、10年後の2005年には英国とスペインは130に伸びた。米国とオランダは120台半ばで、フランス、イタリア、ドイツは110台半ばだった。
日本の伸びは先進国中で最低の109だった。かつて、「我々は日本とは違う」と言わんばかりに欧米で「日本病」が語られていた背景には、欧米諸国の所得の顕著な伸びと日本のもたつきがあったと言える。
しかし、これは次の10年間に様変わりした。2005年の1人あたりGDPを100とすると、2015年には米国とオランダは106、英国が105、フランスは103、スペインとイタリアは100以下にとどまり、ドイツだけが突出して良い116だった。ちなみに日本は106。何のことはない。欧米の多くの国々も、日本と同じかそれ以下の伸びだったである。
ただ、近年の国民所得の伸びを比較する場合、日本と欧米で一つの重要な違いがある。日本の1人あたりGDPは1990年初頭からすでに20年以上にわたって伸び悩み、多くの日本人が生活水準の急速な向上を期待しにくい状況が続く。
一方、欧米では冷戦終結から世界金融危機まで好景気が続き、所得も伸びた。このため、欧米の人々は、自分たちの生活はこれからも良くなると思っていたが、その期待が裏切られた・・・
この項続く。(2016年11月2日)