アメリカ社会と政治、大統領の限界

アメリカ大統領選挙は、接戦の末、トランプ氏に決まったようです。
渡辺将人著『アメリカ政治の壁―利益と理念の狭間で』(2016年、岩波新書)が、勉強になりました(かなり前に読んでいたのですが、ここに書くのを怠っていました。何事も、思い立ったときに、しておかなければなりませんね。反省)。著者は、マスコミ記者やアメリカでの政治事務所での経験をもつ、北海道大学准教授です。
8年前、熱狂的に迎えられたオバマ大統領が、なぜ思うような政治ができなかったか。その政治・社会的背景が描かれています。
分析視角として、民主党と共和党との対立や、大統領より強い議会という構造だけでなく、その対立をさらに複雑にする社会の分裂を指摘します。一つの補助線は、「利益の民主主義」と「理念の民主主義」です。これが、宗教、マイノリティー、経済・貿易などの争点で、支持政党とは違う分裂を生んでいます。オバマ大統領の敵は、共和党ではなく、民主党内にいるのです。新書という分量に、わかりやすく書かれています。是非、本をお読みください。
新しいアメリカ大統領もまた、国民の政治的意識の分裂の中で、難しい舵取りを迫られます。自らの主張を実現しようとすると、法案を議会で成立させる必要があり、その議員たちは有権者の意向を無視できません。
オバマ大統領が、1期目に早々と求心力を失う模様は、ボブ・ウッドワード著『政治の代償』(邦訳2013年、日本経済新聞出版社)が生々しく描いています。
ところで、かつて日本では、決められない政治を打破するために、大統領制にすべきという主張もありました。しかし、構造的には、衆議院が必ず与党優位になる議院内閣制の方が、大統領の与党が必ずしも議会で優位にならない大統領制より、強いはずなのです。現に、今やアメリカより日本の政治の方が「決めることができる」政治になっています。
さて、海の向こうの大国の政治も重要ですが、我が日本の政治はどうか。利益と理念の政治はどう対立し絡み合っているか。考えさせられます。
社会の亀裂の状況が、日本とアメリカでは大きく違います。アメリカでは「全員がマイノリティなのです」という指摘があります。日本ではかつて、「単一民族、一億層中流」という説明が受け入れられていました。しかし、そのような時代は過ぎ、正規非正規、子どもの貧困といった「亀裂」が大きな課題になっています。それを、政治・政党がどう拾い上げるか。その役割の差もあります。(2016年11月9日)