マナーの作り方、国民性の変化。エスカレーター

7月20日の朝日新聞夕刊「あのときそれから」は、「エスカレーター片側空け出現」でした。1980年代から、急ぐ人のために、エスカレーターの片側を空けることがマナー(礼節)になりました。関西では左側を、関東では右側を空けるようです。私も「新地方自治入門」で、「現在作られつつある習慣」と紹介しました。しかし、最近では事故防止のためなどに、空けない=2列に並ぶことが推奨されています。興味深いのは、次のようなことです。
まず、そのマナーの導入に際し、「先進国を見習え」という手法が用いられたことです。
・・・1980年代の朝日新聞をめくってみると、ロンドンの地下鉄で見られる習慣の素晴らしさを絶賛し、翻って日本では…と嘆く記事がいくつも見つかる。
「日本の都市でのふしぎな光景は、すいているエスカレーターでもほとんどが歩かぬことだ。(中略)一種の『こっけいな日本風俗』の一つであろう」(83年11月28日付)
「片側一列に立って、急いで昇降する人たちのために、かたわらを空けておく、英国などでみられるマナーは日本でもまねたいもののひとつだ」(86年8月5日付夕刊)・・・
今読むと、新聞の論調、そしてそれを受け入れた国民性に、驚きます。今このような記事を書くと、どのような反響が返ってくるでしょうか。たった30年で、こんなに変わるのですね。もっとも、この手の手法は、形を変えて使われています。

作家の山本弘さんは、次のように語っています。
・・・日本人が昔から「マナーを守る礼儀正しい民族」だったかというとそんなことはありません。歴史の本で大きな事件はわかっても、細かいことは書かれていないのが普通ですから、誤解してしまうのかもしれません。社会が一種の記憶喪失になってしまっているともいえます。
交通にかかわるマナーでいうと、駅弁の食べかすやゴミを座席の下に突っ込んでおく、などというのは当たり前でした。現代の清潔な列車からは想像もできないでしょう。僕が子どもの頃にはまだ電車の乗り降りでも、降りる人と乗る人がぶつかり合って大混乱していました・・・