社会科学による大震災の分析5、その2

日本学術振興会「大震災に学ぶ社会科学」第2巻『震災後の自治体ガバナンス』第4章、伊藤正次先生の「復興推進体制の設計と展開」から。
・・・復興庁が現に発揮している「司令塔」機能とは、復興に必要な行政資源を一元的に管理し、関係府省に対する強力な総合調整権限を発動しながら復興事業を主導していく「統率型」の機能ではない。むしろ復興庁は、関係機関との人的交流に基づいて柔軟な組織体制を模索しながら復興を推進する「連携型」の機能を担っている。復興局の「ワンストップ」対応も、そこに相談すれば被災自治体の要望がすべて満たされるといった類いのものではなく、被災自治体の側面支援を行う場を提供し、課題を抱える現場に手をさしのべることを企図したものである。
こうした期待と現実のギャップこそ、復興の「遅れ」を批判する議論の根拠となっているのかもしれない。だが、仮に復興庁が「司令塔」機能と「ワンストップ」対応を字義どおりに追求するならば、「市町村主体の復興」や県レベルでの復興事業の調整・支援は後景に退かざるを得ない。地方自治の尊重と復興の加速化という2つの課題に応えるには、復興庁が、自治体を含む関係機関と連携しつつ、関係機関間の連携を取り持つことによって、その主導性を発揮していくことが求められているように思われる。いわば多機関連携のハブ機能を果たす復興庁という姿こそ「行政の現実」(牧原(2009))を踏まえた復興推進体制の望ましいあり方なのではないか・・・(p117)

復興庁を設計するに際しては、任務と権限や内部組織のあり方のほか、内閣・各省との関係、職員集めなどが課題になりました。いかに理想的な組織を考えても、それを動かす職員が伴わないと、仕事は進みません。高台移転、土地区画整理、道路や農地の復旧などの専門家は各省にいます。というか、各省にしかいないのです。民間には、その専門家はいません。
各省から専門職員を吸い上げて復興庁ですべてを行うとすると、各省の人材が不足します。そして各省は、被災地以外での事業も抱えています。そこで、各事業の実施は各省に残しつつ、復興庁に専門職員を派遣してもらい、各省に指示をし(その権限をもらいました)、現場との調整をするという機能分担をしたのです。そのために、各省各部局からは、事業に精通した精鋭を送ってもらっています。これでうまく回った、そしてこれしかなかったと思います。