戦後70年、日本の転換点

朝日新聞オピニオン欄が「戦後70年、日本の転換点は?」を特集しています。8月2日は、読者が選んだ転換点のアンケート結果が載っていました。1940年代や50年代という回答もありましたが、これは戦後改革と位置づけるとして、その後の半世紀近くをどこで区切るか。それはまた、戦後日本と現在の日本を、どのように評価するかという「価値判断」の反映となります。
20年近く前(1990年代後半、仮に1995年としましょう)に、宮沢内閣の大臣秘書官同窓会で議論になりました。総理秘書官のT先輩が、「それは60年安保だ」とおっしゃったので、私は「それは古すぎまっせ」と反論したことを覚えています。その時点で、戦後50年でした。1960年で区切ると、前半15年で後半35年になります。私は、「高度成長が終わったオイルショック(1973年)ではないですか」と申し上げました。これだと、前半が28年で、後半が22年でした。さて、その議論をしてから、さらに20年が経ちました。
2003年に書いた『新地方自治入門』でも、その考え方に立って、戦後日本社会と、日本政治、そして地方行政を評価しました。紹介文に、次のように書いています。
・・・私は、戦後の日本の地方自治体は、ナショナル・ミニマムと社会資本整備という課題を、実に良く達成したと考えています。日本の経済成長の成果の上に、行政機構や地方財政制度がうまく機能したからです・・・
・・・これまでの課題がほぼ達成された今、地方行政は次なる目標を探しあぐねています。また、現在の地域の課題に必ずしも的確に答えていないと思います。
地方行政そして日本の政治は、目標を転換するべき時がきています。それはまた、日本経済・日本社会・日本人の思考の転換でもあります・・・
経済成長の軌跡も、その観点から、区分しました。しかし、このような区分も、経済偏重になっているのかもしれません。繰り返しになりますが、どこで区切るかは、何を指標に区切るかが鍵であり、それは現在の日本社会をどのように位置づけるかによります。これまでの延長線上にあるのか、変えなければならないのか。変えるとしたら、何が課題か、です。
私のこれまでの考えでは、戦後日本の課題は経済成長であり、それを達成した1970年(大阪万博)、あるいはその延長でバブル崩壊の1991年までが前半です。そして、次なる目標を定めかねているのが、後半です。70年間を「戦後日本」と規定するのは、政治家や歴史家、そして私たちの怠慢でしょう。しかし、次なる目標を決めかねている、現在の日本社会を測る物差しを決めかねていることが、区切りを決められない原因です。

上司の仕事:戦略を立てること

先日、「業務の管理=予定表」を書きました。ようやく、部下=各課の仕事の全体像をつかんだという話です。
さて、予定表を作ることで、自分の仕事の見通しが立ち、部下とも仕事の重要度とスケジュールを共有できます。しかし、上司の仕事としては、ここまでで半分です。ここまでは、管理職としての仕事です。
さらに必要なのは、この予定表に載っていない「戦略」を立てることです。各課長が作った課題と予定表は、課の仕事であって、局の仕事ではありません。課の仕事を積み上げても、局の戦略にはならないのです。
もちろん、各課長が作った予定表に、その局の戦略が書かれておれば、それで良いのですが。通常は、与えられた各課の仕事を前提に、課題と業務が載っています。
課の課題を足し上げても、局の戦略にはなりません。組織の責任者としては(私は、まだ責任者ではありませんが)、その組織の中長期的戦略を立てることが、もう一つの大きな任務なのです。本当は、先に局の戦略があり、それに基づいて課の目標があるのです。
民間企業の場合、社の目標があり、それを達成するために部の目標があります。そして、それに基づいて課の目標があります。当たり前のことです。社の目標を達成するために、その下部組織が作られているのですから。ところが、官公庁や古くなった会社では、組織全体の目標をブレイクダウンして、各課の目標を作っていないのです。所掌事務は決まっていても、課の目標は決められていないのです。目標による管理が、行われていません。
この構図は、課長と係の関係でも、当てはまります。

リスクをとる人と、とらない人。動く人と、動かない人

朝日新聞8月1日のオピニオン欄「消費しない日本人」、藤野英人さん(ひふみ投信・運用責任者)の発言から。
・・・景気回復の兆しは肌で感じられるのに、マクロの統計数字をみると、実際の個人消費は伸び悩んでいることに違和感を覚えていました。
なぜ低迷するのか。各地の経営者や投資家、僕が教えている大学の学生らと対話を重ねるうちに、日本人が「動く人」と「動かない人」に二極化しているからではないか、という見方に達しました。
「動く人」とは、リスクを取ることをよしとする人です。努力は報われると考え、自身が成長するための習い事や勉強にお金を惜しみません。海外に行くことも躊躇せず、未知の人との出会いにも意欲的。希望を最大化しようとする戦略を取ります。
対して「動かない人」は想定される失望を最小化する戦略を人生の指針にしています。リスクを嫌い、学校や家との往復が生活の中心で、住む場所もあまり変えない。日本の将来に悲観的なため、消費を控え、貯金してできるだけ未来の失望を小さくしようとする生き方をしています・・・
私が常々思っていることに、明快な表現を教えてくださいました。そうなんです。動くだけの、あるいは動かなければならないだけの、地位と財産がありながら、動かないのです。というか、リスクをとらなくても、それなりに地位と財産は保障されているから、今さらリスクをとらないのです。これは、企業経営者、企業の社風、官僚の一部にも蔓延しています。そして、先輩たちが成功した後に、その地位を受け継いでいるので、「保全」が先に立つのです。成功体験の負の遺産です。環境(取り巻く社会経済状況)が変わらなければ、それでも優位な地位は保つことができます。江戸時代の日本社会であり、冷戦崩壊までの日本です。しかし、環境が変わったときに、それではおいて行かれます。

国の財政の全体像・分析

6月22日読売新聞に、「特別会計見直し本格化」の記事が載っていました。一般会計予算82兆円の他に、特別会計予算が合計387兆円あるとのことです。母屋より離れの方が、はるかに大きいのです。重複があるので、純計額はもっと少ないとはいえ。
ことほど左様に、わが国の国家財政は、全体像も各論もよくわかりません。地方財政の場合は、特別会計がいくつあろうと、普通会計と企業会計に分別して、集計し公表しています。また、普通会計にあっても目的別だけでなく、人件費や投資的経費など性質別にも分類して公表しています。決算もです。一方、国家財政の場合、特別会計を含めた全体像は不明ですし、決算も予算も性質別にはでてきません。人件費がいくら使われ、いくら余ったかもわかりません。
記事では、これまでの特別会計を利用した「特会とばし」や「隠れ借金」という手法が、批判されていました。財務省が改革に乗り出し、「予算削減を求めるだけでなく、情報を透明化して、各省庁に自己改革を促す」と書かれています。ある記者曰く「でも、これまでそのような予算編成をしてきたのは、財務省(大蔵省)ですよね?」

行政の構造的課題2

(2)これまでの対応=行政改革
次に、このような問題に対し、どのように対応してきたか、しているかを述べましょう。
①行政改革の歴史
【別紙4】拙著「省庁改革の現場から」p161
これまでは、「総量規制:膨張抑制」「小さな政府:国営企業を民営化」でした。今取り組んでいる行政改革は、一歩踏み込んで「システム改革」です。すなわち、地方分権で地方を自立させる。規制改革で、民間への介入を小さくする。最後に、省庁改革で行政本体を変える。
②行政改革の分類と位置付け
小泉改革は多くの課題に取り組んでいます。覚えきれないくらい。私なりに「行政改革」「構造改革」を分類すると、こうなります。
【別紙5】「省庁改革の現場から」p218
③よりよいアウトプットを目指して
ア 組織改革
 器の改革=省庁改革
各省横断的会議【別紙6】
イ 政治主導(省庁改革)
 副大臣・大臣政務官
経済財政諮問会議
ウ 仕事の改革1=仕事の目標や仕方の改革
 情報公開、政策評価、行政手続法など
エ 仕事の改革2=分権改革・規制改革
【別紙7】「新地方自治入門」p244
オ 人の改革=公務員制度改革
これが、手つかずのままです。
4 もう一つ先の改革へ
(1)官僚(国家)に期待される役割の変化
①日本社会の成熟、国家(行政)目標の達成
20世紀型行政の終了、21世紀型行政への転換
【別紙8】「新地方自治入門」
②国家統治の「かたち」の変更
  国家の運用・行政の運用
ア 政治と行政の関係→「政と官」
イ 中央政府と地方政府の関係→「地方分権」
ウ 官と民間との関係→「規制改革」
「行政改革会議最終報告」平成9年12月(第1章 行政改革の理念と目標 )
(2)官僚はそれに答えているか
①官僚の問題
ア 「官僚批判」に答えているか
イ 発言や政策提言をしているか、議論する場はあるか
②仕組みの問題
ア 養成の問題(採用・昇進・退職後)
イ 大学教育(法学部教育の有効性)
ウ 研究(日本の行政の解説書、研究書は)
参考文献
この国のかたちと政治行政改革については、「行政改革会議 最終報告」(平成9年)
中央省庁改革については、拙著「省庁改革の現場から-なぜ再編は進んだか」(2001年、ぎょうせい)
戦後日本の政治と行政については例えば、山口二郎著「戦後政治の崩壊-デモクラシーはどこへゆくか」(2004年、岩波新書)
日本の行政の現状と課題については、拙著「新地方自治入門-行政の現在と未来」(2003年、時事通信社)
日本の官僚については、私のインタビュー「国家官僚養成に向けて」(月刊『時評』2004年10月号)
地方分権(三位一体改革と日本の政治行政改革)については、拙著「地方財政改革論議-地方交付税の将来像」(2002年、ぎょうせい)、拙稿「進む三位一体改革」(月刊『地方財務』2004年8、9月号)、
「続・進む三位一体改革」(月刊『地方財務』2005年6月号)