原発避難指示12市町村の復興、世界で初めての試み

7月30日に、「福島12市町村の将来像に関する有識者検討会 提言が、最終的にまとまりました。ポイントは、これまでに書いたとおりです。今後、この提言を元に、個別施策を具体化しますが、それ以上に、この地域が復興できることを、世界の皆さんに認識してもらいたいのです。有識者の方でも、話をすると、「あの地域は、人が住めないのでしょ」とか「無人の荒野で荒れているんでしょ」と、おっしゃる方がいます。大間違いです。
一つ、書き忘れていました。これまでに、原子力発電所の過酷事故は、代表的なもので、チェルノブイリ事故と、スリーマイル島事故があります。チェルノブイリ事故では、住民を立ち退かせ、新しい町をつくったことが紹介されます。しかしこれは、元の住居に戻れないので、新しい町をつくるというケースです。
今回私たちが取り組んでいるのは、いったん避難指示を出した町に、安全になった時点で戻ってもらおうというものです。その点では、たぶん世界で初めてのことです。もちろん、安全性を確保し、かつ戻りたいという方だけに、帰還を選んでもらいます。避難は強制でしたが、帰還はご本人の選択です。

将来負担を考えたまちづくり

7月30日のNHK時論公論は、二宮徹・解説委員の「新たな復興枠組み 被災地の自治体は”自立”できるのか」でした。そこでは、復興の進ちょく状況、来年以降の復興事業の枠組み、地元負担の概要のほか、自治体の「自立」への新たな課題が検証されています。
・・・復興後の街を想像してみます。病院など重要な施設以外にも、新しい道路にホールや観光施設が並びます。こうした施設は復興を強く実感させてくれるでしょう。しかし、「負担が少ないならもっと作ろう、大きく作ろう」となってしまうと、余計なものが増えたり、規模が大きくなりすぎたりするおそれがあります。人口や産業の規模に見合ったものにする必要があります・・・
特に「次の世代のために」として、陸前高田市の例が紹介されています。
・・・こうした中で、すでに自ら事業の規模を小さくする動きも出ています。
陸前高田市は、小学校や図書館など、15の公共施設を再建する計画の中で、延べ床面積のおよそ10%を縮小する方針を決めました。既に完成した消防署は防災センターと集約したほか、今後も商業施設と図書館を併設するなどして、効率化を図ります。
自主的に計画を縮小する理由を市長に聞いたところ、次の世代にかかる財政負担を少しでも減らすためということでした。この「次の世代のため」というのは、とても重要な視点だと思います。
公共施設は運営のための人件費や電気代などの維持費がかかります。修繕費は、壁を塗り替えたり、道路の穴を直したりするものですが、数年後には年間1億円以上かかるおそれがあります。これに加え、数十年後には建て替えが必要になります。
特に被災地では、今、一斉に道路や施設をつくっていますので、将来は、何億、何十億円の建て替えを毎年のように行うことが懸念されます。ところが、その頃には今のような国の手厚い支援は期待できません。次の世代の負担を検証する機会は、こうした施設を建てる前の今しかないのです。
また、人口や税収が減る中、将来にわたって住民の暮らしをどう支えるのかも、今、あらためて問われています。しかも、復興が長引く福島では、特に将来を考えたまちづくりが求められます・・・

生活困窮者、3割が働き盛りの男性

7月29日のNHKニュースが、「生活困窮者自立支援 相談の3割が働き盛り男性」を伝えていました。それによると、
・・・生活に困った人を支援するため、生活保護を受ける前の段階で自立につなげようと、ことし4月にスタートした「生活困窮者自立支援制度」について、NHKが全国の自治体を対象にこの3か月の実施状況を聞いたところ、自治体の窓口には合わせて5万5000人の相談が寄せられ、このうち3割が30代から50代の働き盛りの男性に関するものだったことが分かりました・・・
・・・相談の内容は、複数回答で、「収入や生活費」が全体の27%を占めて最も多く、次いで「仕事探しや就職」が16%、「病気や健康、障害」が13%などとなっています。また相談者の性別と年代を見ると、30代から50代の男性が合わせて全体の34%を占め、働き盛りの世代で生活に行き詰まっている実態が見えてきました・・・
戦後日本では、家族や親族による保護、地域での助け合い、会社での支援、そして生活保護によって、困窮者を救ってきました。しかし、それだけでは不十分なことが、この20年ほどの間に明確になってきました。高齢者については、年金や介護保険を充実してきたのですが、所得格差、子どもの貧困、非正規雇用、引きこもり、落ちこぼれなど、苦しんでいる人が「発見」されたのです。現在の日本社会の重要課題の一つでしょう。
第1次安倍政権では、再チャレンジ政策が掲げられました(官邸のHP私のHP)。麻生政権では、「安心社会の実現」が提唱されました。「生活困窮者の支援制度」も、これらの問題への対応です。生活保護を受ける前の、安全網です。学生についても、同様の課題があります。学校を中退すると「困ったことに対応してくれる窓口や組織」がありません。非行を起こすと警察のお世話になりますが、その中間がないのです。「通常生活」と「行政によるお世話になる」の中間に、「自立を支援する」仕組みが必要なのです。
課題は明確になっています。そして、これまでの制度や組織では対応できないことも、わかっています。では、どのように、政府の政策さらには責任組織を再編成するか。ここに、政治と行政の力量が問われます。

原発避難12市町村、将来の夢と実現可能性と

原発事故被災12市町村の将来像を、有識者の方たちと検討しています。その提言が、ほぼまとまりました。今回のとりまとめには、次のような特徴があります。
このような提言では、「夢のある話」が書かれるのですが、それを「実現可能」なものにする必要があります。通常、外部の有識者は、夢のある話を語ってくださるのですが、ときどき実現するのが難しい「夢」であることがあります。他方で、公務員たちで議論すると、「現状の延長」「実現可能なもの」「予算のかからないもの」になって、夢がなくなります。
今回は、現地の状況を知りつつ、夢を語っていただける委員の方々に、参加いただきました。また、福島県知事に入ってもらうとともに、市町村長との意見交換をもしました。他方で、復興大臣をはじめ復興庁も参加することで、実現可能性を担保しました。
内容の面では、放射線量の減衰を推計し、時間はかかりますが、将来は全域で帰還可能との見通しを立てることができました。そして、住民や子どもたちの、「帰りたい」という意向を基に、議論をしました(もっとも、帰還意向は、全員ではありません)。
夢としては、廃炉関連の研究施設やロボット産業など、新しい産業を育てる方向性を出しています。他方、これだけだと未知数が多く、また雇用吸収力も不安です。そこを支えるのが、廃炉作業員などです。現在も毎日、約7千人が、いわき市や広野町から第一原発に通っています。廃炉作業はまだ当分の間、続くと予想されます。すると、この人たちを核とした、「企業城下町」的な町ができるのです。
既に、大熊町大川原地区には、東電による第1原発作業員のための給食センターが、この春から稼働しています。そこでは、約100人の雇用が生まれています。
このように、夢のある話と地に足が付いた話と、両方が入っています。そのポイントは、2015年7月9日に「原発被災地域の将来」に書きました。一部の修正をして、近々提言がまとまります。ここに書かれた各論を、着実に実現していく必要があります。国、県、市町村だけでなく、企業や住民の力も必要です。
なお、復興大臣は、この検討会議のすべてに、最初から最後まで出席しました。座長の大西隆先生が「このような会議で、大臣が皆勤なのは珍しい」とおっしゃっています。また、会議の多くを、福島で開催しました。有識者の方は関東や関西におられるので、少々時間がかかるのですが、福島の将来を考えるので、このようにしました。「現地で考える」が、復興庁の原則です。当たり前のことですが。

原発事故後遺症、安全と安心の差

7月27日の日経新聞「核心」は、滝順一編集委員の「安全情報超え、信頼回復を」でした。その解説では、よい知らせとそうでない知らせがあるとして、次のようなことが書かれています。
よい知らせは、福島県の出生率が回復していること、福島の農産物の検査で基準値を超える放射性物質が検出されなかったこと、南相馬市での検診で中学生以下の子どもの体から放射性セシウムが検出されなかったことなどです。
他方、よくない知らせは、未だに福島県産品の購入を、消費者がためらっていることです。安全を示すデータだけでは、国民・消費者に納得してもらえないのです。詳しくは、原文をお読みください。