司馬遼太郎著『幕末維新のこと』(2015年、筑摩書房)「人間の魅力」p295~。
昭和初年から太平洋戦争の終了までの日本は、ながい日本史のなかで、過去とは不連続な、異端な時代だったこと。すなわち、統帥権の無限性と帷幄上奏権という憲法解釈が、日本国をほろぼしただけでなく、他国に対して深刻な罪禍のこしたことを述べて、次のように書いておられます。
・・・要は昭和の戦争の時代は日本ではなかった―幾分の苛立ちと理不尽さを込めて―私はそう感じ続けてきました。
もっとも、この考え方は他のアジア人には通じにくいですな。かれらにとって太平洋戦争の時代の日本が日本像のすべてで、兼好法師や世阿弥や宗祇の時代の日本や、芭蕉や蕪村、あるいは荻生徂徠の時代の日本、もしくは吉田松陰という青年が生死(いきしに)した時代の日本など思ってはくれません。くだって日露戦争の時代の日本像ぐらいを参考材料として日本を見てくれればありがたいのですが、他の国の人にそんな押しつけをするわけにはいきませんしね・・・
月別アーカイブ: 2015年5月
社会科学による大震災の分析
日本学術振興会による東日本大震災学術調査の成果が、東洋経済新報社から、「大震災に学ぶ社会科学」として発刊されます。その第1回として、第4巻『震災と経済』が発行されました。編集は、齊藤誠・一橋大学大学院経済学研究科教授です。内容は、次の通りです。
第1章 東日本大震災の復興予算はどのように作られたのか?
第2章 東日本大震災が消費支出と物価に与えた短期的影響:高頻度データによる実証分析
第3章 東日本大震災の家計消費への影響について: 恒常所得仮説再訪
第4章 労働市場から見た震災直後・復興過程における経済状況
第5章 決済システムから見た震災直後の金融経済状況
第6章 大震災と企業行動・企業金融
第7章 災害と自治体間の協力関係
第8章 東日本大震災が日本人の経済的選好に与えた影響
この巻は、経済学の立場から、様々な角度で大震災の影響を分析しています。目次を見ながら、「このような課題もあったなあ」と、分析角度の多様さを感じています。社会科学者を動員して、このような調査研究をしてくださった関係者、とりわけ代表である村松岐夫先生に感謝します。
政府の対応について、辛口の検証も書かれています。私たちとしては精一杯したつもりですが、第三者の目から見た評価も重要です。勉強させてもらいます。ご関心ある方には、お薦めです。また、公共図書館にも、備えていただきたいシリーズです。
大型連休、2
大型連休。皆さんは、どのようにお過ごしですか。気候もよく、お出かけの方も多いのではないでしょうか。
私は、1年ぶりに実家に顔を出し、また義父のお墓参り(反省)。それにあわせて、キョーコさんのお供をして観光と、奈良・兵庫・京都に行ってきました。めったに両親にも顔を見せない、親不孝者です。ふだんしないことをしましたが、雨の日は1日だけでした(苦笑)。仕事続きの毎日なので、非日常が続くと居心地が悪いです(笑い)。でも、携帯メールは、どこまでも追いかけてきます。その着信音で、現実に引き戻されます。仕方ないですね。もっとも、簡単な報告だけだったので、大したことはありません。
東海道新幹線をはじめ列車は満員、観光地は「日本中の人が集まっているのか」と思うくらいの人出でした。アジアからの観光客も多かったです。小さな子ども連れの家族も多く、少子化を感じさせませんでした。
大型連休中でも、休めないお仕事も多いです。交通、商店、飲食店、そして病院、警察、消防と。ありがとうございます。皆さんのおかげで、休日を楽しむことができます。
日本の節目
憲法論議
憲法記念日なので、憲法の話を。憲法改正議論が盛んになりました。国会・政党で議論されているほか、新聞各紙も特集を組んでいます。
それぞれの議論には立ち入りませんが、このような議論ができるようになったことを喜びましょう。「押しつけ憲法だから改憲する」とか、「絶対守らなければならないので改憲しない」では、建設的な議論はできません。どちらにしても、憲法が国民のために作られた「道具の一つ」であることを、忘れています(拙著「新地方自治入門」p228)。
その点で、4月29日の朝日新聞「憲法総点検」(上)は、わかりやすかったです。憲法は「公権力を縛って、国民の権利を守るもの」か「国家の目標を掲げ国民が従うべきルールを定めるもの」かという、憲法のそもそも論を解説していました(拙著p305「憲法を支える意識」)。5月1日の(下)では、行政権を「政治的な意思決定である執政」と「官僚によるその実行」に分ける議論を紹介していました(拙著p272「行政と統治の関係」)。
日本経済新聞「経済教室」の「憲法」連載(4月26日~29日)も、読み応えありました。長谷部恭男先生の「憲法の前提となる国家像を考える必要がある」(私の言う「この国のかたち」)「冷戦が終わり、子供から老人まで日常的に動員する必要がなくなった国家は福祉国家をやめ、広範な領域で撤退を始めた」、中西寛先生の「グローバル化に日本として対応できる制度設計」「国民参加による決定」などです。大学では、現行憲法の解釈ばかり習ってきたと記憶しますが、このような議論は面白いですね。十分紹介できないので、原文をお読みください。
憲法と地方自治との関係については、先日、地方行政4に書きました。