司馬遼太郎著『明治国家のこと』(2015年、ちくま文庫)、「ポーツマスにて」の続きです。p99。日露戦争後のポーツマス条約について。
・・ロシアからもっとふんだくれるかと思っていた群衆が、意外ととりぶんのすくない講和条約に激昂して暴動化した。
「群衆」
これも近代の産物である。江戸期の一揆は、飢えとか重税とか、形而下的なものでおこった。
ところが、明治38年に、ポーツマス条約に反対した「群衆」は、国家的利己主義という多分に「観念的」なもので大興奮を発した。日本はじまって以来の異質さといっていい。中世では個々の人間が激情に支配されたが、近代にあっては個々のなかではむしろそういう感情が閉塞し、どういうわけか集団になった時に爆発する。中世の激情が集団の中でよみがえるといっていい・・・