「日本の卒業率はダントツに高く、91%に達している」という調査結果を教えてもらいました。作者は大橋秀雄さん、元東大教授、工学院大学理事長を勤められた方です。
「卒業率」には、2種類あります。一つは、進学率に対応するもので、同年齢の国民のうち何割が大学を卒業しているかです。もう一つは、入学した学生のうち、何割が卒業しているかです。ここで取り上げられているのは、後者です。もう一つ、各学校ごとの卒業率があります。図を見ていただくと、一目瞭然です。イギリスで79%、ドイツで75%、アメリカでは64%です。
先生は、次のように書いておられます。
・・卒業率が低くなる原因としては:
・卒業の関門が高い。すなわち履修科目ごとに合格基準が高く、単位を取得して先に進むのに、相当の勉学と努力が求められる。
・学費が無料あるいは低く抑えられている国では、ずるずると履修が先延ばしになり、ついには中退に至るケースが多い。また学費を支援する親からの圧力が低いのも、中退を助長する。
・入学した大学での学位取得が能力的あるいは経済的に無理な場合でも、卒業がより容易な大学、学納金の安い大学、短期大学、職業専門学校へ移籍するなど、選択肢がたくさん用意されている。中退は挫折というより作戦変更と捉えられている・・
しかし、興味深いのは、次のような分析です。
・・日本の卒業率がとくに高いのは、単に卒業しやすいという判定基準の問題を越えて、社会の要請に適合してきた結果ともいえる。それは、日本の採用・雇用慣行と深く結びついている。
企業が学卒を採用するとき、大学で何を学んだかの付加価値には関心が低く、長期雇用を前提として将来にわたる発展性や協調性を重視して評価する。企業内教育での呑み込みの良さ、すなわち理解力は、大学入試の難易度の方が判断しやすいし、企業が期待する協調能力やリーダーシップは、学力試験からは分からない。それならいっそ、見込みのある学生を早く受け取って、職場で鍛えた方がいい。教えるものにとっては、悔しい状況が続いてきた・・
そうですね。日本の大学教育が、そのようなもので長続きしたのは、それを許すあるいはそれが適合する社会があったからです。「日本の大学教育の経済競争力への貢献度の低さ」も、びっくりします。「痩せたバッタと太ったサナギ」や「鶏卵業からひよこ業へ」のたとえも、わかりやすいです。