「委員会勧告を首相は尊重しなければならない」規定の意味の逆転

読売新聞連載「時代の証言者」西尾勝先生、9月27日の「霞が関反発、ルール違反」から。
・・「霞が関のルールを破っている」。地方分権推進委員会が1996年3月に出した中間報告に対して、各省がこう抗議してきました。
委員会としては、連立与党のプロジェクトチームからの要請を受けて中間報告を出したまでです。しかし、霞が関の各省の常識では、政府の審議会が文書を出す時には、関係各省に事前に説明し、各省の意見を聞いて手直しするのがルールだというのです・・
(村山内閣から橋本内閣に代わっています)・・その橋本首相は、国会答弁などで「地方分権推進委員会には現実的で実行可能な勧告を期待する」と何度も発言していました。
この発言はどういう意味か。私は考えました。
地方分権推進法には、委員会の勧告を首相は尊重しなければならないという異例の規定があるけれど、首相の本意は「閣議決定できるような勧告を持ってきてくれ」「各省が合意して事務次官会議でも異論が出ない内容でなければ困る」という意味だと思いました。
戦後自民党政治の慣習では、法案の場合の手順は、各省間の折衝と政府与党間の折衝が済んで初めて事務次官会議の議題になり、そこで合意を経た後に閣議にかけて国会に提出する―という流れです・・
・・「首相は勧告を尊重しなければならないのだから大胆な勧告をすべきだ」メディアの記者の多くは、当時、そう言いました。しかし、現実をみるとそうはいきませんでした。
委員会の力を強めると思われていた「首相の勧告尊重義務」の意味が逆転し、委員会を制約する力になってしまいました・・
各省合意、与党合意を経る手続き下で、改革を進めることの困難さが、象徴的に現れています。