朝日新聞6月10日、オピニオン欄、三谷太一郎先生の「同盟の歴史に学ぶ」から。
・・冷戦後の世界は、多極化しました。ソ連が崩壊したあと、米国が空白を埋めて、絶対的なリーダーになるかと思われましたが、現実は予想に反しました。G8は、中国やブラジルなどを入れてG20になりましたが、覇権国家が消滅したことに着目すれば、現在の状況はG0(ゼロ)と言ってもよいかもしれません。冷戦後20年を超えた今日でも、安定的な国際秩序は未完の課題です・・
・・歴史上いまほど、理念というものが不足した時代はないでしょう。現在の世界的な傾向であるナショナリズムを超える理念が存在しません。裏返せば、国益に固執した短絡的なリアリズムが世界を支配しています。覇権構造が解体してしまった現実が私たちの眼前にあります・・
月別アーカイブ: 2014年6月
危険な任務の命じ方。命令、要請、自発
朝日新聞6月10日、「思想の地層」小熊英二さんの「法の支配と原発。残留の義務、誰にもなかった」から。福島第一原発が水素爆発を起こしたあと、3月15日の朝のことです。
・・報道では、(原発)所員の無断撤退が問題とされた。しかし本来、民間企業の従業員に、こうした状況で残れと命令する権利は誰にもない。拒否する権利、少なくとも辞職する権利は、保障されなくてはならない。
このとき所員の9割は無断撤退したが、約70人が残留した。欧米では彼らを「フクシマ50」と呼んだ。それは勇敢さを称えたからだけではない。そんな状況で所員を働かせる人権無視に驚いたのである。
あるドイツ在住者は、当時の新聞投稿で、この問題への欧州人の反応をこう記している(本紙2011年4月11日「声」欄=東京)。「民主主義の先進国で、これが可能なんて信じられない。ドイツ人ならみんな、残って作業するのを断るだろう」「欧州なら軍隊は出動するかもしれないけど、企業の社員が命をかけて残るなんてありえない。まず社員が拒否するだろうし、それを命じる会社は反人道的とみなされる」
軍人は死ぬ可能性のある命令でも従う旨を契約しているから、政府が軍の核対応部隊などに残留を命令できる。だがそんな契約をしていない民間人に、残留を命じる権利は誰にもないし、またそれに従う義務もないのだ・・
被災地で住民が住民を支援する
被災地では、住民の自立を支援するために、さまざまな試みがなされています。域外からの応援もありがたいのですが、いずれは地域で自立する必要があります。
今日は、「住民主体の共生型支え合い活動と事業の立ち上げ支援」を紹介します。これは、被災地の住民が困っている人を支援する、それを支援しようという取り組みです。平成25年度の「新しい東北」モデル事業で取り組んでもらいました。その最初の成果(事例集)が出たので、復興庁のホームページに載せました。関係者の方々に、活用していただければと思います。もちろん、ここに載っていないけれど実践しておられる事例もあると思います。ぜひ、お知らせください。
私は、「地域のおおやけの新しいかたち」の一つだと考えています。ありがとう、H参事官、森補佐。
産業復興創造戦略
6月10日に、産業復興創造戦略を取りまとめました。
これまでまずは、住宅再建とインフラ復旧に重点を置いてきました。まちづくりに徐々にメドが立つと、次に産業と生業の再生が大きな課題になります。産業の復旧については、これまで、緊急融資、中小企業グループ化補助金、仮設店舗・工場の貸し出しなどが効果を発揮しました。中小企業庁などが、これまでにない支援をしてくれました。
おかげで、施設設備の復旧は進みました。しかし、失った販路を回復できない(休業中に他の会社に取引先を奪われた)、これまでの製品では発展できないなどの課題が見えてきました。ハード(施設設備)の復旧だけでは、限界があるのです。そこで、本格的な産業復興と地域経済の再生のために、次の手を打つ必要があります。もちろん、津波被災地で高台移転するところや原発事故避難区域では、まだ施設設備の復旧もできていません。
今回作った「戦略」では、「域外から所得を得る産業」と「地域の暮らしと雇用を支える産業・生業」とにわけて、重点的に進める分野を示しました。この分類は、皆さんにわかってもらえると思います。
ただし、産業の担い手は民間の事業者であって、国や県が直接事業をするわけではありません。このあと、産業界などの協力を得て、進めていきます。
その際に、次の手として、どのようなソフトの支援ができるか、ここが難しいところです。担い手である事業者をどう育てるか、不足しているノウハウや取引先情報などをどのように応援するか。アドバイザーやマッチングが重要になります。担い手にしろ支援にしろ、お金では解決できず、「人」が鍵になります。モノでなく、人や関係なのです。行政の手法が試される局面です。でも、このような実践的な話は、これまでの行政学の教科書には載っていませんね。
政策を支える知的基盤・政策共同体、2
もう一つは、「戦略文書の機能」についてです(p49)。
・・日本においては以前より、防衛大綱だけでなく、米国の国家安全保障戦略をモデルとした国家安全保障戦略に関する文書を策定すべきであるとの主張が少なくなかった。今回、国家安全保障戦略についての上位文書が初めて策定され、安全保障政策についてのベースが形成された。ただし、文書は単に文書に過ぎない。特に国家安全保障戦略は、防衛大綱や中期防と異なり、具体的な資源配分に結びつく文書ではないため、単なるレトリックに終わってしまう危険性は無視できない。
例えば、経営戦略論と安全保障戦略論の双方を分析した経営コンサルタントのカリフォルニア大学ロサンゼルス校教授リチャード・ルメルトは、その著書『よい戦略、悪い戦略』の中で、米国のブッシュ政権が策定した2002 年の国家安全保障戦略について、単に希望としての目標を並べたウィッシュリストに過ぎず、現実的な目標を達成するための具体的な手段が記述されていないことを指摘し、戦略と呼ぶに値しないと批判している・・
・・第1 期オバマ政権において、NSC の北東アジア担当上級部長を務めたジェフリー・ベーダーは、退任後2012 年に発表した回顧録の中で、NSC、国務省、国防省が定期的にグローバルな戦略を発表してきているが、それらは実際の危機に際して参照されることはほとんどないとし、かつ現実の政策決定は、戦略文書に基づいて行われるのではなく、その場その場の戦術的な決定の蓄積として行われるとして、こうした戦略文書について批判的な考え方を示している。
また、ブッシュ政権においてディック・チェイニー副大統領の安全保障担当副補佐官を務めたアーロン・フリードバーグは、『ワシントン・クォータリー』2007 年冬号に寄稿した論文「米国の戦略立案の強化」の中で、戦略立案(プランニング)プロセスの目的とは、一つの包括的な文書を策定することでも、各種の課題やさまざまな有事に対応する計画群を作成することではなく、行政府の政策決定者に対して適切な判断材料を提供し、戦略的な意思決定を支援することであると指摘している。
彼は、ドワイト・アイゼンハワー大統領が「計画(プラン)は無駄だが、計画立案(プランニング)は不可欠である」と述べたことを引用しながら、何らかの文書を作成することそれ自体よりも、計画立案プロセスを通じて、重要な政策決定に関わる関係者たちに、どのような意思決定を行う必要があるのか、その際にどのような要素を考慮する必要があるのかといったことを広く認識させていくことの方がはるかに重要であると論じているのである・・
戦略文書を作ることは、一つのアウトプット(結果)です。しかし、ある目的を達成する過程としてみるなら、それはインプット(入力)でしかありません。アウトカム(成果)は何なのか。それを問う必要があります。公務員が陥りやすい失敗は、ここにあります。