今日は、復興大臣のお供をして、岩手県釜石市に視察と意見交換に行ってきました。できあがった公営住宅、高台移転の用地工事が終わり順次住宅が建てられている現場、復旧した水産加工場などです。着実に工事が進んでいます。
沿岸市町村長らとの意見交換の他、市役所に応援に入っている職員たちとの意見交換、激励もしました。保健師、管理栄養士、用地買収業務などに、他の市役所から派遣された職員や民間人が活躍してくれています。
今日一日を有効に使うために、昨日のうちに、釜石市に入りました。東京からだと、5時間かかります。昨晩は、再開している居酒屋で、復興庁の現地職員たちと意見交換会(番外編)をしました。彼らは、経験のない仕事で、大変な苦労をしています。でも、そんなことをものともせず、元気です。ありがとう。安心しました。ただし、懇親会でも元気なので、付いていくのが大変です。私は早々に切り上げて、ホテルに戻りました(苦笑)。
月別アーカイブ: 2014年6月
災害公営住宅に自治会
6月22日の河北新報ネット版が、「災害公営住宅に自治会」を伝えています。
・・宮城県東松島市が東日本大震災で整備した災害公営住宅「市営小松南住宅」の入居者が、小松南地区自治会を設立した・・
・・設立総会は今月上旬にあり、主な役員を決め、ごみ出しや騒音といった生活ルールについて話し合った。7月に住民の親睦を目的に開催する「団地開きイベント」が初めての活動となる。
菅原司会長(61)は「活動は始まったばかりで市に助言を求めることも多いと思うが、住民と行政の間に立って暮らしやすい地域をつくっていきたい」と話した・・
名編集長、粕谷一希さんの仕事
粕谷一希さんが、5月に亡くなられました。『中央公論』の名編集長と呼ばれた方です。退社後も、『東京人』、『外交フォーラム』、『アステイオン』などの創刊に、かかわられました。永井陽之助、高坂正堯、山崎正和、白川静、塩野七生さんらを、世に出されました。
学界の研究や官界の政策を一般の方に広く理解してもらうために、雑誌や書籍は重要な手法であり、場です。その際に、編集者の役割と能力は決定的です。粕谷さんが作られた雑誌や、世に出された作家や研究者をみると、その能力の高さがわかります。随筆集が刊行され始めました。『忘れえぬ人々―粕谷一希随想集』(全3巻、2014年、藤原書店)。
『歴史をどう見るかー名編集長が語る日本近現代史』(2012年、藤原書店)は、明治以降の日本の歴史をどう見るかを平易に語った本です。次のような構成になっています。
1武士の「自死」としての革命―明治維新
2近代日本の分水嶺―日露戦争
3帝国主義と「個人」の登場―大正時代
4「戦争責任」再考―第二次大戦と東京裁判
粕谷さんは、歴史を語る方法として、学者が扱う実証史学、小説家が書く歴史小説、小説家が書くノンフィクションを上げておられます。そして、この本のように、日本論、日本国民の政治史・精神史として語る方法があるのでしょう。それは、過去の事実を取り上げるという形を取って、現在と未来の日本人に取るべき道を指し示すという、警世の書です。日本人それも指導者だけでなく、国民が選択してきた成功と失敗の歴史として書かれています。すると事件の記述でなく、それを判断した当時の指導者と国民を俎上に載せることになります。快刀乱麻で、氏の博学が披瀝されます。
学者や小説家が書く歴史は、「他人事」として客観的に読むことができます。しかし、この本は、なぜ昭和の失敗が起きたのか、すなわち今後どうしたら起こさないか。また、戦争責任と昭和憲法を、今後どのように扱っていくか。今を生きる私たちに、考えさせます。他人事ではなく、自ら責任を引き受け、自ら考えなければならないのです。成功の努力と失敗の判断をしたのは、私やあなたの父や祖父なのです。簡単に読める書でありながら、重い本です。
学問や研究としての歴史は、テーマごとに狭く深く分析されますが、このように100年の歴史を簡潔に書くことは、難しいことです。
「大日本帝国の興亡という大きなテーマを考えた場合、日本が太平洋戦争に負けたのは必ずしも昭和の軍人だけが悪かったのではなく、明治、大正期に形成されていった大日本帝国というもの自体に問題があったというのが、私の大きな感想です。
考えれば考えるほど、昭和史は昭和史で終わるわけがない。やはり、幕末、明治維新、明治国家、明治時代、大正時代―のことをあわせて考えていかないと、昭和の歴史の結論は出ない」(p8)。
「日本人は自らの姿を三思する必要がある。日本は戦争に勝って、“列強に伍する”ことしか頭になかった。日本人は孔明や三蔵法師のことは知っていても、交渉相手の「李鴻章」(岡本隆司氏)のことは知らない。好き嫌いを超えて相手を知らなければ、国際社会を生きていくことはできない」(p166)。
お薦めします。
福島再生加速化交付金
6月17日に、福島再生加速化交付金の交付可能額を、発表しました。この交付金は、原発事故被災地を復興するために、特別に作った交付金です。昨年度まで、現場の実情に合わせて、いくつかの交付金を順次作ってきましたが、統合しました。地震・津波被災地向けが、復興交付金で、原発事故被災地向けが、この福島再生加速化交付金です。
発表資料を見て頂くと、どのような事業をしているかが、わかります(資料p3)。例えば、帰還者の生活再開拠点となる公営住宅の建設、帰還して生活する際に飲料水の不安をなくすための井戸掘りなど、この災害に特有の対策が入っています。他に、待って頂く方への市町村外での住宅建設や、帰還するために公共施設を掃除したり、ネズミを駆除したりといった事業も行っています。
現代財政史
シリーズ「日本財政の現代史」(2014年、有斐閣)を紹介します。第Ⅰ巻『土建国家の時代1960~85年』(井手英策編)、第Ⅱ巻『バブルとその崩壊1986~2000年』(諸富徹編)、第Ⅲ巻『構造改革とその行き詰まり2001年~』(小西砂千夫編)の3冊です。
高度経済成長期と石油危機以降の赤字財政の時代は、教科書に載っています。しかし、バブル崩壊後は、まだ今続いている時代です。バブル崩壊を1991年とすると、20年以上が経っています。歴史になっています。大きな事件や変化があったので、いろんな書物や研究が出ていますが、簡単なよい解説書は、なかなか見当たりません。
歴史は、一定の時期が過ぎ、そこからある視点で、過去の出来事を位置づける・意義づけることが必要です。事態は、どんどん進んでいきます。今日のことが、すぐに古くなります。現代史を書くことは、とても難しいことです。そして、「失われた20年」と呼ばれるように、日本の政治、経済、財政は、新しい方向を模索しています。教科書を書きにくいのです。しかし、模索中であるからこそ、この間の動きを整理して欲しいです。
近過去の事件は、私たち熟年には経験した「昨日のこと」ですが、学生や若手職員には学校で習わなかった「歴史」です。私たちにとっても、どのような視点でこの時代の出来事を位置づけるか。参考になります。
このように、整理してもらうと、ありがたいです。各巻、四六判、300ページあまりと、コンパクトにまとめられています。財政、税制、構造改革、政治変化など、目配りの効いた構成になっています。 日米構造協議や地方分権も入っています。詳しい執筆者と内容は、それぞれのリンク先を見てください。中堅若手の研究者がたくさん、執筆しておられます。
欲を言えば、関連項目として、経済、金融、国際経済、国際金融も、簡単に書いてもらうと、背景がわかって理解の一助になると思います。もっとも、それは別のシリーズでしょう。