無戸籍の人がたくさん生じている

「毎年、無戸籍になる人が500人以上いる」って、理解できますか。5月21日のNHKクローズアップ現代「戸籍のない子どもたち」が、取り上げています。「どうして、そんなことが」と思われるでしょうが、次のような理由だそうです。
・・背景には、DVや離婚の増加がある。夫の暴力から逃げ出し、居場所を知られるのを恐れて離婚もできずに歳月が経ち、新たなパートナーとの間に子供が生まれた場合、法律上は夫の子と推定され、夫の戸籍に入る。そのため、母親が出生届けを出せず、子どもが無戸籍になってしまうのだ。実の父親の戸籍に入れるには裁判所での手続きが必要だが、前夫が関与することを恐れて、断念する人が多い・・
すると、学校に通えない、正規職員になれない、運転免許が取れない、健康保険に入れない、携帯電話を買えない、銀行口座を持てないと、国民としての権利も持てず、普通の生活もできません。その苦労は、察するにあまりあります。
単に、届け出を忘れていたといった問題ではありません。しかも、その子どもには、何の責任もありません。何らかの対応が必要です。

さて次に、行政の立場から、考えてみましょう。
市町村役場の窓口も、困るでしょう。その人の戸籍や住民票を受け付ける規則はないのだと思います。どうするか。この人たちを救う仕組み=規則を変える必要があります。
それを、誰がするか。政治家の役割ですが、行政の役割でもあります。行政には、2つの役割があります。一つは決められた規則通りに運用することです。もう一つは、困っている人がいる場合に、その規則を変えることです。
それぞれの省庁や法律は、その時々の課題に対応するために作られました。国民を幸せにするためにです。しかし、時代が変わると、新たな課題が生まれてきます。あるいは、見落としていた課題も見つかります。戸籍制度も住民基本台帳も、国民にサービスを行き渡らせるために作ったものです(国家として国民を把握するためでもありますが)。ところが、NHKが取り上げたような事態は、想定していなかったのでしょう。
多くの役所は、「決められたことを実行する」ことで、精一杯です。「そう言われても、法律でこのように決められていますから・・」と。特に現場は、そのように教育されています。
これを解決する方法は、「困っている人のために規則を変えること」を任務とする役所を、作れば良いのです。私は、「国民生活省」をつくって、国民の困りごと一般を受け付け、制度改正を仕事とする役所を作れば、多くの課題は拾うことができると思います。もちろん、個別の課題解決は、それぞれの担当省や市町村役場で担ってもらいます
大きな課題が生じた場合、どのように解決するかの対応方法に、「そのための責任者を決める」「そのための組織を作る」ことも、効果的な対処方法です。大震災の際の、被災者生活支援本部や復興庁もその例です。

公務員も安心しておられない

国家公務員も、かつてのような「保障された人生」では、なくなりました。それは、大企業でも同じです。総務省人事恩給局が、40代の職員を対象に、自分の人生設計を考える研修をしています。その趣意書を、一部紹介します。
・・公的年金の支給開始年齢の引き上げによる再任用の義務化等に伴い、職業生活期間の長期化が想定される一方、能力・実績重視の強化、再就職あっせんの禁止等により従来と同様のキャリアパスを見通すことは困難となっている。
また、内外の社会経済情勢の変化、継続的な行政改革などの中で、中高年職員は長期にわたりモチベーションを維持しつつ、環境変化や役割変化に対応することが求められており、そのための能力開発等に自ら努めていくことが重要となっている。
更に、複線型の人事管理、早期退職募集制度等、自らのキャリア選択を前提とした制度の導入がなされていること、民間企業においても40 歳代以降の職員を対象とした自律的なキャリア・デザイン支援の取組を導入する例が増加していることを踏まえると、定年直前ではなく、早期の段階から職員が自らのライフプランについて考えることが必要となっている・・

野党の役割

毎日新聞5月2日論点「あるべき野党の姿は」、宇野重規先生の「世界と日本、見取り図示せ」から。
・・政党政治の祖国といえば英国だが、一朝一夕に仕組みができたわけではない。後に自由党と呼ばれるようになるホイッグ党が、名誉革命をへてウォルポール首相の下で内閣を形成するまでに、30年は経過している。単に与野党があるばかりでなく、政権交代を含めて責任ある政治の仕組みが定着するには、それほど時間を要する。
哲学者のヒュームが面白いことを言っている。重要なのはむしろトーリー党(後の保守党)であった、というのである。野党に転落した後、彼らは単に権力を奪回するだけでなく、野党として権力を批判することが英国の自由にとって重要であることを学んだ。各政党が、権力と自由の両方の視点をもつことが肝心だというのが、ヒュームの教訓である。
自民党が野党期間に何を学んだか、あるいは政権を失った民主党がいま何をしているのかは、ここでは論じない。肝心なのは、政権交代以前の与野党関係にはもう戻れないということだ・・

時給の額だけでは、仕事は選ばれない

日経新聞インターネット版5月20日「消える明かり「すき家」、バイト反乱で営業不能」が、興味深かったです。
・・景気低迷に覆い隠されていた日本経済の弱点が、白日の下にさらされた。労働力の供給が細る中、景気が回復して構造的な人手不足が露呈している。その影響をもろに受けたのが、牛丼チェーンの「すき家」。店舗が相次いで営業時間の短縮や休業に追い込まれた。人手が足りない上に業務量の増加が追い打ちをかけ、アルバイトが逃げ出した。多くの小売りや外食企業に、採用難の問題は野火のように広がる・・
・・それは異様な光景だった。
4月中旬の午後7時、東京都世田谷区にある牛丼チェーン大手の「すき家」桜新町駅前店。周囲の飲食店やコンビニエンスストアの照明が煌々と夜空を照らす中、この店だけは電気が消え、暗闇の中に沈んでいた。もちろん本来は年中無休・24時間営業の店舗だ。
「本日の営業は終了しました。申し訳ございません」。入り口の自動ドアに目を凝らすと、殴り書きのような貼り紙の文字が浮かび上がった・・
詳しくは本文を読んでいただくとして、p4に、商店街のアルバイトの時給が並べてあります。これも興味深いです。

市場を機能させる政府の役割

青木昌彦先生の『青木昌彦の経済学入門―制度論の地平を拡げる』(2014年、ちくま新書)から。この本は、先生の制度論の入門書になっていますが、それについては別途書くことにして。ここでは、2000年に行われた、フリードマン教授との対話から。
・・社会主義体制が崩壊した時、ロシアは、国営企業を民営化し、市場の自由化に踏み切りました。しかし、ロシアの経済改革は難航し、10年間で国民総生産(GDP)が約40%も低下しました。失敗の原因は明らかです。市場経済においても、政府には果たすべき重要な役割があるのです。ロシアでは政府が契約や知的財産権の保護という基本的な機能において無力となり、マフィアがそれにとって代わりました。
20世紀後半の10年から導き出される重要な教訓は、政府も市場機能を高める重要な役割を担っているという点にあります・・
政府の役割を、私なりに再検討したことがあります。「行政構造改革」。経済学の教科書は、このようなことは書いてありません。政治学や行政学の教科書も、触れていません。時間ができたら、もう一度挑戦します。そのために、本を読んだり、メモを作ったりしているのですが・・。
復興における政府の役割の変化も、その一つです。宗教との関わりも、そうです。社会の変化によって、公助の範囲が広がりつつあります。「社会のリスクの変化と行政の役割」。他方で、公の担い手が広がっている(政府の独占ではない)ので、旧来の行政の役割(の観念)は、変更を迫られています。