組織の能力、6。仕事の仕方と社風を作る、2

被災者生活支援本部は発災直後の混乱時期でもあり、政務職と事務職があつまり、毎日の会議で多くの事案を即断即決しました。職員もそのほか関係者も、「早く何らかの手を打たなければならない」という意識でした。また、世間全般が、そのような雰囲気でした。前回に述べた「公務員の欠点」は、出る幕がありませんでした。
まずは、どのような要望も意見も受け付ける。直ちに処理できるものは、そこで決める。直ちに返事できないものは、その旨を報告し、急ぎ検討してもらって、その結果を報告する。部下からの報告を待つのではなく、トップダウンで決めて進める。情報を待つだけでなく、こちらから聞きに行く。そのような仕事の仕方と社風ができ、それを、復興本部、復興庁に持ち込んだのです。
その結果、いくつも新しい解決を編み出してきました。もちろんこれは、国会や関係府省のご理解と協力のおかげです。

復興庁は今も、とてもフラットな組織で、統括官(局長)、参事官(課長)、企画官、補佐、係長、係員が、テーマごとに集まって議論をし、方向を決めています。通常の府省だと、係長や係員にとって、局長室は「遠い」です。
また、統括官や参事官が自らペンを持って、職員に指示を出します。ボトムアップを待つことなく、トップダウンで課題を解決するのです。業務が定型化してくると、ボトムアップになります。でも、次々と新しい課題が出てくるので、トップダウンにならざるを得ないのです。復興庁の参事官たちは、霞が関の課長の中でも、最も多くペンを持ち、パソコンで文章や資料を作っていると思います。
そして職員は、しばしば現地に足を運んで、現場を見ています。机上の空論でなく、現場で答を出すのです。あわせて、市町村長や自治体職員と、頻繁に意見交換をしています。これが、信頼関係を作っているのだと思います。それが、先日紹介した市町村長アンケート結果「復興庁の評価」に出ているのでしょう。
復興庁で仕事をした多くの職員が、このような仕事の仕方と社風に驚いて、「勉強になった」と言ってくれます。「親元の省では、新しい事業を考えても、予算要求の枠があり、上司を説得してと、なかなか実現できません。復興庁では、こんなに早くできるとは」とか「新しいことができ、結果が出せるので、うれしかったです」とか。もっとも、もれなく「仕事は大変です」という言葉も、ついています(苦笑)。

組織の能力、5。仕事の仕方と社風を作る

被災者支援本部や復興庁が、設立母体なくできた組織だと指摘しました(組織の能力3)。すると、仕事の仕方や社風を作らなければなりません。もっとも、意識して作らなくても、自然とできあがるものでもあります。しかし、自然とできあがる社風が、組織の運営に適切なものかは、保証の限りではありません。
ここに集まった職員の多くは、国家公務員です。国家公務員の良いところと悪いところを持っています。官邸、国会、与野党、各省との仕事のすりあわせ方は、みんな知っています。法令の読み方、法律のつくり方、予算の要求や執行の仕方も、知っています。
他方、しばしば批判される欠点「それは前例にありません」「法律に書いていません」「予算がありません」という公務員的思考を、持ってきている人もいます。
被災者支援本部も復興庁も、「これまでにない大災害」に対応するために作られた組織です。「前例がありません」などという発想自体が、矛盾しています。
そして、スピード感です。目の前に今、困っている人や自治体がいるのです。「それは私の所管ではありません」とか、検討のしっぱなし(お蔵入り)では、存在意義がありません。もちろん、その場で回答できないもの、検討に時間を要するものはあります。しかし、できるだけ早く、的確な回答をすること。前例がないことでも、できないか知恵を出すことが必要です。
できない理屈を探すのではなく、また自分の所管でないことの理由付けを考えるのではなく、どうしたらできるか、誰ならできるかを考えるのです。(ただし、全ての要求に、国が答えられるものでもありません。国民の税金で行うのですから、一定の限度があります。)
そして、予算をつけたことや通達を出したことで、「やりました」としないことです。それは、霞が関ではアウトプットですが、被災地ではインプットです。現地で結果を出さない限り、「やりました」とは言えません。
この項続く。

仏典漢訳

船山徹著『仏典はどう漢訳されたのか』(2013年、岩波書店)が、勉強になりました。古代インドで成立した仏教の教え(経典)が、梵語(サンスクリット語)やパーリ語から、どのように中国語(漢文)に翻訳されたかです。
はるばるインドまで、仏典を求めて旅をした玄奘三蔵は有名です。鳩摩羅什の名前も、歴史で習いました。インドの仏典から漢文への翻訳は、後漢(西暦1世紀)から唐(9世紀)にかけてが、盛んだったようです。
全く言語が違う古代インド語を、中国語に移し替えます。単語の並びも違います、文法も違います。さらに、中国にはなかった概念を、持ち込まなければなりません。
翻訳が集団で行われたこと、みんなの前で解説しながら行われたことも多いこと、単語を逐語訳してそれから漢文に並び替えたことなど、「へ~っ」と思うことが、たくさん並んでいます。その過程は、原文(梵語)を読み上げる人、それを漢字で書き取る人、そして漢語に置き換える人、文字の順序を入れ替え通じるようにする人・・と、分業で成されます。
音訳したり、近い漢語を当てたり、新しい字を作ったり。仏、寺、塔、魔。精進や輪廻だけでなく、縁起や世界といった単語もだそうです。また、梵語にはRとLの違いがあり、漢語にはありません。
インドに旅することと、世界観というべき仏教を輸入することで、中国が世界の中心でないことも学びます。中華思想が、崩れるのです。
おもしろいです。お勧めします。

NPOとの連携

NPO等が活用可能な政府の財政支援」を、改訂しました。平成25年度補正予算と、26年度予算を反映しました。もっとも、26年度予算はまだ成立していないので、予定です。NPOの皆さんには、結構重宝してもらっています。行政では手の届きにくい課題について、民間に協力してもらっています。そこを行政が支援するという、新しい公の形だと考えています。
予算の概要だけでなく、これまでの活動例や、問い合わせ先も、載せてあります。工夫してあります。そのほかにも、いろんな連携を試みています。ご活用ください。

どの道路が通れるか、ホンダの貢献

自動車会社のホンダが、今回の豪雪で通れる道路を、インターネットで公表しています。「甲信地方の豪雪災害エリアの道路通行実績情報」。
これは、ホンダ車(カーナビを積んだ車)の通行実績を、地図に落としたものです。どの道路を通ったか=通ることができるかが、わかります。逆にいうと、この地図で青くなっていない道路は、通っていない=たぶん通れないということがわかります。
東日本大震災でも、大きな効果を発揮しました。ありがとうございます。ビッグデータの、代表的な活用例です。そして、行政だけが公を担っているのではない、という事例です。