御厨貴先生の研究録

御厨貴先生が、『知の格闘―掟破りの政治学講義』(2014年、ちくま新書)を出されました。2011年9月から12年2月まで、6回に分けて行われた、東大最終講義の記録です。
いや~、おもしろいです。といったら失礼になりますが、先生は許してくださるでしょう。一気に読み終えてしまいました。
先生による、40年近くに及ぶ学者生活の「自叙伝」です。次のように、先生のこれまでの活動が、整理されています。
1 権力者の素顔に迫る―オーラル・ヒストリー
2 政治の最前線に躍り込む―公共政策
3 近現代からの現場中継―政治史
4 進撃!歴代首相邸へ―建築と政治
5 同時代とのバトル―書評と時評
6 映像という飛び道具―メディアと政治
本業の政治史にとどまらず、いろんな分野で活躍されたことがわかります。単に研究書だけで政治に接近するのではなく、また大学の研究室に閉じこもっているだけでなく、さまざまな切り口・接近方法があることを身をもって示されたのです。
そして、一貫して流れているのは、日本の現代政治をどうみるかです。「政治学の教科書や研究書は難しくて」とか「新聞や週刊誌の政局ものは内容がなくて」とご不満の方、ぜひお読みください。おもしろいですよ(繰り返し)。
また、帯についている先生の似顔絵が、秀逸です。カバーの写真は温和なお顔ですが、似顔絵はエネルギッシュな先生を良くとらえてあります。よく見たら、黒鉄ヒロシさんのイラストでした。

日本の生活文化を売り込む

先日も、日本の生活文化を海外に売り込むための、「クールジャパン機構」を紹介しましたが、日本の良さを海外に売り込むことが関心を呼んでいます。
読売新聞は「ソフトパワーのつくり方」を連載していました。例えば1月9日(第6回)では、日本を訪れる外国人観光客が、物見遊山でなく、日本を体験することに関心を持ち満足していることを取り上げていました。ハレの場でなく、普段着の日本にも関心を持っているのです。いろんなものが独特の陳列をされている格安量販店のドン・キホーテ、浅草のカッパ橋道具街の食品見本(ロウ細工)、しかもそれを作る体験コースとか、観光果樹園のもぎ取り体験も。
観光庁の調査では、外国人が日本で満足した出来事は、次の通りです。生活文化体験が71%、歴史・伝統文化体験が、68%、自然・景勝地観光が63%、温泉入浴が57%、日本食が56%、繁華街の街歩きが53%、美術館・博物館が52%、買い物が52%、旅館に宿泊が42%です。
私も若い頃、海外旅行が珍しかったときに、ヨーロッパの観光地も行きたかったですが、町中でのレストランや商店での買い物がうれしかったです。もちろんそれには、日本にない「あこがれ」「珍しさ」が必要です。
NHKスペシャルも、ジャパン・ブランドを特集しています。かつて日本人が、ヨーロッパの暮らしにあこがれ、アメリカンライフにあこがれたと同じように、アジアの人たちが日本の生活文化をあこがれてくれると良いですね。

久しぶりの富山

今日は、富山市まで行ってきました。富山県庁で仕事をしたときの同僚が、突然亡くなり、そのお葬式です。60歳代半ば、元気な人だったので、びっくりしました。
私が富山県で総務部長を務めたのは、平成6年から4年間です。39歳から43歳でした。赴任してから20年、離れてから16年が経ちます。ここのところ機会がなく、富山に行くのは久しぶりです(あれだけお世話になったのに、不義理を重ねています。反省)。
元県庁幹部の葬式なので、かつて一緒に仕事をした方、お世話になった方にたくさんお目にかかることができました。もっとも、このような機会なので、じっくりと話をすることはできませんでしたが。
雪景色できれいでした。1年後の新幹線乗り入れをひかえ、駅前は発展しているようです。有名になったライトレールも、格好良く走っていました。

宗教が持つパワー

松本佐保著『バチカン近現代史―ローマ教皇たちの近代との格闘』(2013年、中公新書)を、紹介します。
書評欄で、「バチカンが近代・世俗化・主権国家との戦いの中で、どのように生き残ったかを分析した書」という趣旨の解説があったので、「なるほど、そうか」と思って読みました。
世界史の授業では、中世のキリスト教(カトリック教会)の強さを習います。しかし、近代になって、イタリアが国家として成立していく過程で、そして各国で国教から外される過程で、どのように法王庁は生き残ったか、生き残りを試みたかは、習いません。
詳しくは本を読んでいただくとして、妥協や改革を拒否し孤立した教皇や、ときの政治に近寄りすぎる教皇も出てきます。共産圏崩壊に果たした役割も、解説で初めてわかりました。なかなか生々しいです。そして、新大陸での信者獲得が、そんなに新しいことではないことにも、驚きました。
いまなおバチカンは、大きなソフトパワーを持っています。チャーチルがカトリック教会のパワーを指摘した際に、ソ連の独裁者スターリンが、「教皇が何個師団持っているのだ?」と答えた逸話は、有名です。さて、軍隊に換算したら、いくらぐらいの兵力になるのでしょうか。
時と場合によっては、軍隊以上の力を持っていると思います。イスラム圏での、自爆テロを聞くたびに、自らの命をおしげなく捧げる宗教の強さと怖さがわかります。