佐藤俊樹著『社会は情報化の夢を見る』(12月22日)の続きです。読み返していて、もう一つ再発見した(読んだのに忘れていた)ことがあります。
それは、日米の組織と人事の違いです。よく言われているように、アメリカでは、組織の各参加者の役割が明確に決められている場合が多いようです。職務明細書・職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)によって、あらかじめ決められています。他方、日本の場合は、共同作業にあたる参加者の間での役割分担が、明確に決まっていない場合が多いです。その都度その都度、お互いに調整しながら、柔軟に分業していきます(p163)。
この違いは、組織内でのコミュニケーションの違いとなって現れます。さらに、この違いは組織の外の社会構造にも、違いをもたらします。労働市場や教育制度が、違ってくるのです(p173)。アメリカ型では、労働者の組織間の移動が起きやすく、日本型では終身雇用になります。終身雇用だから、職務記述書がなくてもすむのです。
私がこの労働市場の違いに、「そうだったんだ」と再認識したのは、次のようなことからです。
復興庁は、10年の期限付きの組織です。最初は、各省から職員に出向してもらって、職員をそろえました。しかし、それだけでは足りません。また、市町村でも職員が不足しているので、他の自治体から応援職員を派遣してもらっています。民間企業にも、お願いしています。こんなことは、初めてです。
しかし、これも限界があります。派遣元団体も、職員が余っているわけではありません。大量になると、無理があります。そこで、民間から公募して集めています。期限付きですから、採用しやすいと思ったのです。
ところが、これがそう簡単ではないのです。自治体に「退職した職員がいるでしょ。その人たちを紹介してください」と、お願いしてみました。しかし、たいがいの人は再就職しておられます。想像してみてください、工事現場に必要な知識と経験を持った若くて元気な人が、労働市場にたくさんいますか。たくさんは、いません。勤めながらより条件の良い職を探している人はいるのでしょう。しかし、例えば3年間、市町村役場で働いても、次の就職先が保証されていません。そして、申し訳ないですが、そんなに高い給料は払えません。このような条件の下で、未経験者を募集するのならば、応募はあります。しかし、それなりの経験と技能を持った人を、期限付きで探すことは、難しいのです。
それでも、復興庁では、幸いなことに、経験と意欲を持った人たちがいて、かなりの職員を集めることができました。皆さんに、活躍してもらっています。ありがとうございます。
結論。アメリカ型は、仕事のポスト(席)が先にあって、それに応募する人を探します。日本では、職員の集団がいて、その人たちに仕事を割り当てます。アメリカ型では、経験と技能を持った人は、組織間の移動は簡単です。そして、またその次の職場も探せます。日本型では、組織内で経験と技能を身につけ、組織内で昇進していきます。どちらが良いかは別として、組織内がそうなっていると、組織外の労働市場も各労働者も、それに応じた状況になります。日本では、労働市場に、次の仕事を探している有能な人は、大規模にはいないのです。
そこで、もう一つ本を読みました。この項続く。
月別アーカイブ: 2013年12月
民主主義が機能しないとき
毎日新聞12月25日「そこが聞きたい。民主主義国の政治劣化」、フランシス・フクヤマさんへのインタビューから。
・・民主主義に変化をもたらすのは、時間がかかるプロセスなのですね。なぜならコンセンサスを形成しなければならないし、利益集団の強い力にも勝たなければならないからです。
政治を衰退させる要素は2つあります。一つは、制度が新しい状況に対応できないこと。もう一つは、利益集団が国家を「占有」してしまう問題です・・
クリスマス・イブ
今日は、クリスマス・イブ。私は仏教徒なので、キリストさんの誕生日は、縁がないのですが。子どもの頃は、ケーキと靴に入ったお菓子が、うれしかったです。
ホワイトクリスマスのメロディー(I’m dreaming of a white Christmas ・・)もよいですが、JR東海の新幹線のコマーシャル、山下達郎さんの「クリスマス・イブ」は、今でもプラットフォームの映像と一緒に、メロディーが浮かびますねえ。「きっと君は来ない・・・」。携帯電話のない時代のお話です。インターネットで、当時の映像を見ることができるようです。
職員には、「今日は早く帰りなさい」と指示をして、異業種交流会へ。でも、こんなことが言えるのは、発災以来久しぶりです。
東京の六本木は、若い男女で、すごい人出でした。お店の人曰く「去年と違って、人出が多いです。洋食系レストランは、どこも満員です」と。
私たちは、おじさんと若手の男子が5人。和食で、日本酒でした。とほほ・・。
しかも、いろいろと厳しいご意見をいただきました。というか、若い人たちに、突き上げを食らう会でした(笑い)。参考になります。皆さん、復旧だけでなく、日本を良くしようと思っている、熱い人たちです。少しずつ、日本社会を変えていきましょう。
若手学者による現代日本政治研究
砂原庸介・大阪大学准教授が、年末恒例の「今年の○冊」を書いておられます。これは、基本的には出版された、現代日本政治の博士論文を紹介したものです。政治・行政学の出版物一般でないことが残念ですが、とても重宝なものです(感謝)。
今年も、さまざまなテーマで、立派な論文が出たのですね。いくつかは買ったのですが、読むまでに至っていません(反省)。
匿名発言の危険
12月23日の朝日新聞社会面「2ちゃん、匿名の代償 「身バレ」で失った信頼」から。
・・ネット掲示板「2ちゃんねる」から今年8月下旬、3万件以上の会員情報が流出した問題が、思わぬ事態を引き起こしている。相手をののしり、自作自演の書き込みをした人たちが、ネット上で次々と特定されている・・
・・気鋭の男性小説家(35)はこの秋、作家仲間や出版社へのおわびに追われた。
作家は2ちゃんねるの掲示板で、ライバル視していた小説家を「虚言癖がある」と攻撃し、別の小説家の作品が原作の漫画については、アンケートをした出版社を「打ち切り確定なのに資源の無駄」と批判。一方、自身を「(出版社が)『作家買い』をする例外中の例外」と自賛していた。
一連の騒ぎで、ネットで暴言や中傷を繰り返していたことが発覚し、仕事上の関係先や信頼を失った。
作家は取材に「相手を見下したい、おとしめたいという漠然とした悪意があった。相手の欠点とみた部分を、一方的に罵倒する書き込みは快感だった」と振り返る。賛同する書き込みを見つけると、快感がさらに増したという・・
・・匿名の書き込みが誰のものか、投稿主の身元がわかってしまうことをネット用語で「身バレ」という。2ちゃんねるの会員情報流出から4カ月たった今も、ネット上では誰の書き込みかを特定する動きが続いている・・
・・今回は会員情報に加えて、数十万件の書き込み履歴が流出したことで、個人が特定された。ただ、これまでも身近な人物が情報を漏らすなど、ブログや掲示板の投稿主が特定されたケースは多い。「ネットに匿名は存在しない。そう思って利用した方がいい」。
「ネットの記録性にも目を向けて欲しい」と注意を呼びかけるのは、ネット上のコミュニケーションを研究する関西学院大の鈴木謙介准教授(社会学)だ。ネットに記録された情報は拡散し、消し去ることは不可能に近い。検索も簡単だ・・
記事には、「ネット利用の心がけ5カ条」も載っています。参考になります。このサイトは実名ですが、特に5番目は、私も時々やってしまいます。
1 情報は漏れると心得よ~第三者の流出事故まで防げない。
2 匿名なんて、あり得ない~IPアドレスや履歴、足跡だらけ。
3 いつか、あなたも狙われる~過去の情報が特定の材料に。
4 失敗は闇夜とともに~夜中は気持ちが大きくなる。
5 飲んだら書くな 書くなら飲むな~お酒は判断を鈍らせる。