飯田敬輔著『経済覇権のゆくえ―米中伯仲時代と日本の針路』(2013年、中公新書)が、わかりやすかったです。この本では、国際経済秩序に意思と活力を与えるのが「経済覇権国」である、と定義しています。戦後にそれを担ってきたのが、もちろんアメリカです。アメリカ1国では足りないときは、米英協調・米欧協調でした。国際経済秩序は、いくつかの部位(レジーム)から成り立っています。本書では、通商(貿易、国家間のモノとサービスの取引)、通貨レジーム、金融レジームの3つの他に、開発レジームを加えて解説しています。
戦後、圧倒的な経済力とそれを基礎とした軍事力で、アメリカが世界秩序を維持しました。その後、ヨーロッパ各国と日本が戦後復興と経済成長に成功し、アメリカの一国覇権を脅かしました。もっとも、アメリカに取って代わることはありませんでした。
近年は、中国と新興国の発展がめざましく、特に中国は人口の大きさもあり、このまま発展するといずれアメリカを抜くという予測もあります。また、リーマン・ショックが、高度に自由化・国際化した金融と世界経済を揺るがす事態を引き起こしました。
中国が今後どのような思想を押し出すか不明ですが、現時点では、戦後アメリカや西欧が作り上げた自由貿易体制を崩すことはないようです。覇権の揺らぎについて詳しくは、本書をお読みください(中国は軍事的にも、別途いくつか、戦後秩序に挑戦しているようにも見えます)。
覇権という視点で見ると、どの国が主張を押しつけるか=どの国の思想や経済界の考えや都合がまかり通るかという「争い・権利」の面と、混乱が起きたときに誰が責任を持って収めるかという「収拾・義務」の面があります。かつては、戦争にしろ貿易にしろ一国が勝てば良かったのですが、これだけ世界経済が緊密化し、金融が国際化すると、一国だけが身勝手に勝ち誇ることはできなくなりました。逆に、危機になった国が出た場合や世界経済が不況になったとき、危機が発生したときに、その経済力で事態を収拾する・手をさしのべる義務が大きくなりました。
1929年の大恐慌と違い、2008年の世界金融危機は第二の大恐慌を回避しました。それは、先進各国が協調して、事に当たったからです。もっとも、その後の世界同時不況には、苦しめられています。また、貿易の自由化については、全世界を対象としたWTOは遅々として進んでいません。他方、2国間や地域でのFTAは進んでいます。
経済活動は、長期的な国内の社会変動と国際秩序の変化をもたらすとともに、短期的にも景気変動や市場の混乱を生みます。それを、政治がどのように制御するか。国際社会は、その実験をしています。