本郷恵子著『買い物の日本史』(2013年、角川ソフィア文庫)が、おもしろかったです。「買い物の日本史」と表題がついていますが、内容のほとんどは、中世の官位を金で買う事情です。この表題には、やや疑問あり。
律令制が崩壊してから、官位は金とコネで買えるようになりました。相模守とか左右衛門尉とか、時代劇でおなじみの官位が、その役職に就いていなくても、もらえるのです。そのために、朝廷に対して、あるいは幕府を通じて、申請します。もちろん、相場の金額を納める必要があります。そのお金は、朝廷の収入になったり、社寺の造営の費用に充てられます。取り次ぎをする貴族たちも、手数料を取ります。
そんな官位ですから、もらっても収入が増えるわけでもありません。何故、皆がそんな肩書き=紙切れを欲しがるのか。この仕組みを成り立たせているのは、官位をもらわないと社会で名乗りをできない=一人前と認めてもらえないという風習です。現代だと、名刺がないということでしょうか。だから、猫も杓子も、少々の金と地位のある者は、官位を欲しがります。そして、さらに上の位を目指します。朝廷、幕府、貴族、社寺が、これらによって一つの秩序を構成します。公共システムを、成り立たせているのです(p122)。
恐るべし、官位の価値。逆にいえば、それも手に入れることができるという、貨幣の価値。
もっとも、時代とともに、ものの値打ちが下がることは、世の常です。どんどん、手数料が下がります。
そして幕末になると「七位、八位ならば、無位無冠の方がよほど良うございます。何故と申しますと、下駄屋、魚屋、そんな者が七位になるのでございます」という状態になります(p187)。なぜ、このような人たちまでもが、官位を欲しがるのか。そして手に入るのか。それは、本をお読みください。
もっとも、現代人も官位を欲しがります。中世の人たちを笑うことはできません。