9月10日の日経新聞経済教室、奧野正寛・東大名誉教授の「政策『先送り』今こそ脱却を」から。
・・一つの経済では、時間とともに、ある産業が成長し、代わりに別の産業が衰退する。その過程で衰退産業から成長産業に、ヒト・モノ・カネなどの資源が移動することが、経済が全体として成長するために必要である。しかし、資源が企業間・産業間で移動するには摩擦がつきまとう・・
そのような産業構造の転換に伴う一時的な失業問題を解決しようとする政策が、産業調整政策である。伝統的に産業調整政策は「積極的産業調整政策」と「消極的産業調整政策」に分けられてきた。これらに「環境整備政策」を加えるのが適切かもしれない。
「積極的産業調整政策」とは、成長産業に資源を誘致するため補助金などの政策援助をするものである。他方、「消極的産業調整政策」とは、衰退産業での雇用や資源利用を援助し、失業の痛みを減らそうとする政策である。「環境整備政策」とは、どの産業が成長産業であるかが分からなくとも、職業訓練などの求職者援助政策によって、資源の産業間移動を促進しようとする政策である・・
消極的産業調整政策は短期的に失業を抑えるプラスの側面がある一方、長期的には、成長産業への資源の移動を抑制し一国経済の経済成長を妨げるという問題を抱えている。日本経済の新陳代謝が妨げられ、潜在成長率が低迷している背後には、日本経済の構造調整を「先送り」させるこれらの政策的・制度的措置があると考えられる・・