日経新聞夕刊の「人間発見」は、25日から俳優の加藤剛さんです。加藤さんは、俳優生活50年のベテラン。テレビの「大岡越前」で、おなじみです。
・・・ところが、長く俳優をやっていながら、人前に立つ自信がありません。舞台初日の開幕までの心細さ。終演までの「魔の時間」を前に、鏡の中の自分の扮装姿を眺めると、映った相棒は何とも頼りない。開幕ベルが鳴り響き、背中を押されて舞台へ出ていきますが、常に自信がない。少年時代の学芸会も「役が付きませんように」とひそかに祈ったほどです。そんな私がなぜ俳優になったのか、実に不思議です。
思えば駆け出しの頃は、この仕事がそれほど恐ろしくなかった気がします。「人間の条件」(俳優デビュー作)をはじめ若い時分の映像を眺めていると、よくあんなことができたな、と驚きます。若さがそれをさせたな、と。だが、どんな仕事も完成はなく、どこで完成なのかがわからない。年とともに役を演じる怖さがわかってきたのでしょう・・
あの堂々とした大岡越前守の演技の裏(本当の姿)です。達人や名人というのは、こういうことなのでしょうね。