さて、職員が答弁案作成を嫌がるのは、次のような質問でしょう。
まず1つめは、これまでにない質問、取り組んでいない課題についての質問などです。
「これまでにも出た質問」は、前例通りに、そしてその後の進展を加味して、簡単につくることができます。これまでにない質問の場合に、困るのです。
普段にどれだけ「想像力を活かして、考えているか」が問われます。質問が出てから(それはしばしば夜になります)考えていては、間に合いません。
すると、答弁原案は、これまでのいきさつが長々とかかれ、「今後適切に対処して参りたい」という、内容のないものになります。これでは、答弁する大臣も総理も困るでしょうし、質問した議員も、腹が立つでしょう。
もう1つは、1つの課に収まらない質問が出た場合です。「それは、私の課の担当ではない」と、押し付け合いが始まります。ようやく分担が決まって、各課で作った文章を持ち寄り、足し合わせます。すると、できあがった答弁案は、各課が行っている事実が羅列された、ポイントのないものになります。これまた、大臣が満足するものにはなりません。
このような「これまでにない質問」「いくつかの課にまたがる質問」のときに、上司の力量が問われます。
各課で押し付け合いが始まる場合には、主たる責任者を決めるか、あるいは自分で執筆の方針を示します。各課に任せておいて、出てきた答弁案を見てから怒っていては、時間の無駄です。かつて岡本課長補佐が押し付け合いをしていて、局長に一喝されたことは、『明るい係長講座』に書きました。
総理の立場や大臣の立場に立って、「良い答弁案」を作ることができるのは、それら各課を統括している地位にある人です。もちろん、総括課の課長や補佐は、それを代行することができます。
しかし、これまでにないことを聞かれた場合は、責任者と方針を決めてからでないと、書けません。それは、局長や統括官の仕事です。中には、私だけでは決めることができない場合もあります。その場合は、2つの案を作って、翌朝に大臣に相談することもあります。
多くの府省おいて、答弁案作成は、課長(参事官)が責任者です。課長補佐や係長が原案を書いて、課長が手を入れ、局長(統括官)に上がってきます。しかし、いくつかの課にまたがる質問、これまでにない質問にあっては、上司が早々と「出て行く」必要があるのです。
もちろん、部下の教育を優先して、できの悪い答弁案が出てくるのを待ってから、指導する方法もあります。しかし、それは、労力と時間の無駄だと、私は考えています。
みんなが気持ちよく仕事ができて、早く帰ることができて、かつ大臣も満足する案を作る。そのためには、どうしたらよいか。
そこで、国会開会中は、私は毎日夕方に国会班のところに行って、「私が書く質問はないか?」と御用聞きに行くのです。早く寝るために。