外交の民間委託

これまた、買って読もうと思っていた本をようやく読んだので、その紹介です。高木徹著『ドキュメント 戦争広告代理店 情報操作とボスニア紛争』(2005年、講談社文庫)です。
1992年、ユーゴスラビア連邦から独立を宣言したボスニア・ヘルツェゴビナは、ユーゴスラビアとその主体であるセルビア(人)との間で、内戦状態に入ります。ボスニアの外務大臣(外交は素人の大学教授)を支えて、アメリカや国際社会の同情を集め、「ユーゴスラビア=悪、ボスニア=被害者」というレッテルを貼ることに成功した広告代理店の話です。ついには、ユーゴスラビアを国連から追放することにも、成功します。
どうやら実態は、そんな簡単なものではなく、「セルビアもボスニアもどっちもどっち」だったようですが。この広告会社の活躍で、欧米の主要マスコミにセルビアが一方的に悪いという認識を植え、国際世論を誘導することに成功します。キーワードとして「民族浄化」「強制収容所」といった言葉をはやらせ、写真をつけて一人歩きさせるのです。
まあ、読んでみてください。おもしろいです。もちろん素材は「おもしろい」という言葉では不適切な、多くの人が死んでいる内戦です。
外交および国家の国際宣伝を、民間会社に外注したという観点からも、読むことができます。また、マスコミを動かすテクニックを学ぶことができます。嘘をついたり嘘の演出をする広告会社もあるようですが、この会社はそのようなことをせず、ぎりぎりの「危険な用語」を使い効果的な演出を行います。このほんの副題では「情報操作」となっています。勉強になります。もちろん、いつもこんなにうまくいくとは思えませんが。
会社や役所の広報担当は、日頃の記者との付き合いを先輩たちから教えられます。最近は、事故を起こした際の「危機管理」を勉強しています。しかし、そのような「起こった際の対応」「ダメージを抑える広報戦略」という「後ろ向きの広報」ではなく、ある方向に誘導する「積極的な広報戦略」「前向きの広報」です。広報担当者には必読の文献だと、思うのですが。